『犯人がわかりますん。』(黒沼昇) ラノベで読みたいミステリー! 作者の“伝奇”趣味に、共感と好感が尽きない!!

 10月に発売された黒沼昇のライトノベル『犯人がわかりますん。』(電撃文庫)は、まずタイトルが妙に気になる一冊だ。

 いったいなにが「わかりますん。」なのか? これは最近の出版業界でありがちな、とりあえず「タイトルで釣ろう」という営業戦略の一環か……? と、筆者自身もわかりますん。なので、とりあえず読んでみることに。

 結果、黒沼氏の際立つ独自性に賞讃を送りたくなったのです。

 主人公・干支川圭一は超能力者。その能力は、夢で未来をみることができるというもの。しかし、その能力で幼くして不幸を味わった彼は、表向きは能力を失ったことにして生きています。友人もいない彼が学園で会話をするのは、超能力を信じず、彼を「中二病」扱いする売れっ子天才女子高生推理作家・小町柚葉。なぜか高校のミステリー研究部に所属する二人ですが、圭一が先輩のお嬢様・眞壁瑠璃子を事故から救ったことで物語が始まります。

 ……始まるのだけれど、とにかく展開が早い! ページ数でいえば20ページあたりで瑠璃子を事故から救って、50ページあたりでもうお互いを名前で呼び合います。いやぁ、最近の若い人は手が早いですね……。

 もちろん、これで大団円じゃなくて、事件はここから。招かれた瑠璃子のお屋敷の描写は以下の通り。

モダン和風建築の『新館』
豪華数寄屋造りの『母屋』
大正ロマンの面影を残す二階建ての『離れ』
六棟の蔵が立ち並ぶ『倉庫区画』

 えっと、この時点で犬神家に招かれたのか、悪魔が来たりて笛を吹くのか、湯殿山麓は呪い村で、天河伝説は殺人事件なのか、何が起こっても不思議ではありませぬ。とにかく「お父さん、怖いよ。何か来るよ」とだけはいえます。

 そして、物語はかつて神に生贄を捧げていたという雛森祭りの伝承から、ミステリーとホラーを融合させた展開へとなっていくのです。

 あらすじだけでもネタバレになりそうなので省きますが、本作を読む中で気づくのは、作者・黒沼氏のまごうことなき伝奇を愛する心。祭りの伝承は、生贄のみならず嫉妬から始まった一族の惨殺という血なまぐさいもの。そして、その伝承に登場する般若の面をつけた謎の人物が現代に現れるという展開に……。まさに、70年代後半から80年代にかけて一大ムーブメントとなった、日本人が大好きな伝奇ミステリーそのものなのです!

 一時は使い古されたかと思った舞台装置を、黒沼氏はライトノベルの形で見事に復活させています。そして、そんなおどろおどろしい世界を描きながらも、黒沼氏の筆は暗さを感じさせません。むしろ、コミカルに描いていくのです。おそらく、自分の好きなものを「いかに現代に受け入れられる形にするか」を、相当考えたと伺うことができます。

 日本の伝統的なミステリーのスタイルに対するリスペクトともいえる本作。今後、黒沼氏がどんな作家として成長していくのか、期待です!
(文/大居 候)

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ある意味、KADOKAWAの本流かも…。

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