上場で問われた『鷹の爪』の今後 FROGMAN、人生の転機となった『菅井君と家族石』から10周年インタビュー!【後編】

■代理店を挟まずに可能なキャラクタービジネスの提案 ゆるキャラブームが後押し

 一方、株式会社DLEには椎木隆太社長の存在が欠かせない。DLEは2001年の創業だが、椎木社長は06年の『秘密結社 鷹の爪』プロデュースを「第二創業」と呼んでいる。

FROGMAN「この間、椎木がシリコンバレーに行ったんですけど、アメリカは先進国でありながらキャラクタービジネスが日本ほど進んでないんです。企業のアイコンとして、キャラクターを使っているところはあまり多くない。アニメっぽい2頭身、3頭身のキャラクターを企業のアイコンに登用しているのは日本くらいで、世界的に有名な企業って、そんなに自社のキャラクターを作ってないでしょ? 向こうの人は『キャラクターを作ってコンテンツ化していくのに興味はあるけど、お金かかる』と言うんです。日本人は、幼いといえば幼いのかもしれないが、キャラクター好き。同じことを考えていた椎木の先見性でもあるんですが、(椎木によって)キャラクターをどれくらいの早さで、どれくらいの量を、どれくらいの価格でなら売り出せるのか、というのをシビアに知ることができた。プロデューサーってすごいな、と思いますね」

 さらにDLEを後押しする出来事が起こる。ひこにゃんが登場した07年以降の「ゆるキャラブーム」到来である。

FROGMAN「僕が言うまでもなく、『ドラえもん』とかのキャラクターがCMに使われることは日本ではよくあって、『ワンピース』に比べると全然吹けば飛ぶような、ウチみたいなささやかな『鷹の爪』のキャラクターにもかかわらず、断るほど仕事がくるのは不思議だなと思ってたんですよ。それを本当に実感したのは08年かなぁ。劇場版の2(『秘密結社 鷹の爪 THE MOVIE II ~私を愛した黒烏龍茶~』を始めたあたりに電通と組んで、特にサントリーさんとガッチリやらせてもらってる時には、“みんなに好かれるコンテンツ”というのを意識的につかめるようになってきた。そのあたりから、ひこにゃんとかゆるキャラが浮上してきたことで、既存のメーカーや出版社など、テレビでないところから世間にドーンと注目されるようになってきましたね」

 かくしてDLEのビジネスの根幹として、FROGMANさんの作風、椎木社長の目指す方向、そして時代の背景が三拍子揃った。

FROGMAN「10年前(04年)に島根で『菅井君と家族石』を“早く・安く作る”とやっていたのが、『DLEみたいなの(ビジネスモデル)っていいね』という問い合わせがこんなに多くなってきた。グローバル化で、言葉だけじゃないイメージを伝えるということで、キャラクターのニーズが高まっているんですよ。こうしたスタイルはアメリカではないし、『キャラクターコンテンツの制作をディズニーにお願いする』としたら、とんでもない金額になる。だからウチみたいにファストエンターテインメントな会社が注目されてます。現在のように、海外でも面白いと思ってもらえるというのがうれしいです。だからその意味では、僕は“Flashのアニメーション世界”というよりも、コンテンツのブームやジャンルみたいなものを提案することができたんじゃないかな。まだまだ僕らは発展途上で、色々まだ問題は多いので、やりようはあると思ってますね。デジタル時代に小さな映像をどう作ればいいのか、というモデルケースは示せた」

 DLEは、必然的に版権を生かしたキャラクタービジネスで、現在のブランドを確立していく。先に述べたように「映像そのもので利益を生み出すことが非常に困難になっている」時代に、いわば“映像外収入”とでもいうべき活路が見出されたのだ。

FROGMAN「DLEに電通が出資してくれてるんですけど、博報堂に限らず広告代理店が熱烈にラブコールを送ってくれるんですよ。代理店のように最先端の情報をキャッチアップしている人たちの中でも、『コンテンツを作らないと、代理店もやってられないな』という意識は、より強くなってます。ゆるキャラブームが叫ばれていますけど、コンテンツはキャラクターが一番いい。それで、広告代理店も『キャラクターを作るに当たって、どこと組んだらいいのか』という目星をつけていたのかもしれません。その目星の中にDLEも入っていたのでしょう。

 そういう意味では、面白い時代だと思いますよ。テレビ局とか代理店さんが対等に『我々と一緒にコンテンツを作っていこう』というのは、今までなかったですもんね。あくまでもプランナーから『こういうのを作ってくれ』という指示があって、下請け会社としてコンテンツを制作していた。コンテンツ制作会社から『本当に作らせてください!』というのがなかったところから、パブリッシャーとコンテンツ制作会社が『一緒にコンテンツを作りましょう!』となってきた。既存のアニメ会社ももっと自信を持って、下請け会社というスタンスでなくて、『コンテンツを一緒に作りましょう』というスタンスのほうがいいと思います。ウチなんて、5年前まで明らかにそんじょそこらのアニメ会社よりショボかったですし、バカにされてましたよ。そういったところから、今はこうやって仕事の話が来てくれますから、ありがたいなあと思っています。代理店を挟まないでお付き合いしてる会社もたくさんありますしね」

 DLEについて、『秘密結社 鷹の爪』といったアニメ制作が看板となっていることもあり盲点になりがちだが、同社はキャラクタービジネスありきの会社である。

 そして今年、ついに株式の上場を果たした。

FROGMAN「上場するときに、アナリストから指摘がありました。『DLEにおける「秘密結社 鷹の爪」の売り上げは56%で、半分以上を占めている。もしFROGMANさんが「会社を辞めたい」とか、なんらかの事故で「秘密結社 鷹の爪」を作れなくなったら、どうするんですか?』と。どんな大企業でも、人の力によって支えられているのは否めない。だから、『秘密結社 鷹の爪』についても、吉田くんのキャラクターはこうしたほうが可愛いはずだとか、今風だよね、と考えるのであれば、絵柄が変わってもいいと思ってるんです。(現時点では)無茶だと思うんですけど、ディズニーだって絵柄を変えてきているし、時代に合わせてキャラクターの解釈を変えてるのは学ぶべきでしょう。今後は、それくらい『秘密結社 鷹の爪』とFROGMANの関係を希薄にしていきたいな。会社としては、FROGMANのタレント化、『もっとFROGMANをテレビに出そうぜ』みたいな話もありますけど(笑)」

 ディズニーといえば、メガヒットした『アナと雪の女王』でも、監督の名前を知っている人はほとんどいない。一方、通販会社「ジャパネットたかた」の名物社長・高田明さんが社長の座を退く決断をした際、同氏がテレビに出演しなくなる日を危惧する人も増えた。……個人か会社か。FROGMAN監督個人としてだけでなく会社の取締役・小野亮としての立場も背負っているからこそ、今後の方針の選択にも迫られるのだ。

FROGMAN「でもまぁ、上場できてよかったですよ、単純に。『上場した』っていうと成金臭があるんですけど(笑)、それ以上に僕らがやってきた意義としては、『まさかDLEが上場!?』『ええっ!』というインパクトを世間に示したかったんですよね。コンテンツビジネスって、こういう時代なんだよ、と。デカい作品は派手に見えてるけど、儲かってない作品もたくさんあって……たかだか『秘密結社 鷹の爪』くらいの収益性で上場できちゃうDLEってどんな会社なんだって。それでも、DLEが本当にやろうとしてることをできてるかというと、まだまだかな。本当にDLEは今後どうなるのか。まだ(DLEの力は)『秘密結社 鷹の爪』というコンテンツでしか示せていないので、次だと思ってるんです。『秘密結社 鷹の爪』を超えるコンテンツを企画してますから!」

 椎木社長が「第三創業」と呼ぶ時代が来るのかどうか。潜水夫(FROGMAN)がさらに浮上する日を楽しみに待ちたい。
(取材・文/真狩祐志)

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