出版社の都合で原稿料を払わなくてよいのか? ライトノベル作家との騒動で見えた一迅社の体質

 出版社の指示で執筆を始めたら、企画そのものが社内で通っていなかった。そんなトラブルに巻き込まれたライトノベル作家・真慈真雄氏が、10月末に一連の出来事をツイッターで開示し注目を集めた。

 この騒動は、11月頭に真慈氏が一迅社から説明を受けて一連のツイートを削除したことで沈静化した。けれども、ひとつの大きな疑惑が残っている。それは一迅社側がミスを認めながらも、ここまで執筆した原稿料を支払う気がないのではないか? というものだ。
 
 真慈氏はすでに商業で10年あまりの活動歴のある作家だ。削除された一連のツイートによれば、真慈氏が一迅社より執筆依頼を受けたのは、今年1月のこと。5月にはプロットが通っていたがイラストレーターが決まらず、執筆を始めたのは9月に入ってからであった。ところが、原稿の4割あまりが完成した10月になり、仕事をキャンセルされたのである。

 これを知った真慈氏は「10年以上物書きしてきたけど、プロットが通って執筆開始してから依頼そのものがキャンセルされたのは初めてです。作家を何だと思ってやがる」などと、怒りのツイートを連投したのである(当該ツイートは削除済み)。

 その後、一迅社から連絡を受けた真慈氏によって明らかにされた騒動の経緯は以下の通り。真慈氏は担当からの指示で執筆を始めていたのだが、一迅社の側ではまだプロットが通っていない段階だったというのである。

 説明を受けた真慈氏は、一連のツイートの削除を行って騒動は収束したかに見える。しかし、経緯を説明した後のツイートでは「一銭にもならない原稿をずっと書いていたことに変わりはないので、今後の生活をどうするかが急務だな……。」と述べられている。

 つまり、一迅社側は最初に執筆依頼をキャンセルした時点でも、その後に説明を行った時点でも、それまで執筆した原稿に対して原稿料を支払う意志を見せなかったようだ。このことは、真慈氏が説明を受ける前の怒りのツイート(現在は削除済み)の中で「仕事の依頼を取り消すなら違約金払いやがれバーカバーカ!(※この業界にそんなものはありません)」と記していることからも明らかである。

 これは単なる担当のミスを越えて、大きな問題だ。従来から出版界では、契約書を交わすのが“原稿を納品してから”、あるいは“本が出てから”という特殊な慣習が存在する。そのため、出版社の都合で出版が中止になった場合、トラブルになりがちだ。裁判では執筆依頼があった時点で契約がなされたと見なされる場合が多いが、「出版が中止になった企画には支払いは不要」と考えている編集者が多い。そこには「書き手はいくらでも取り替えのきく下請け」という差別的な意識も見え隠れする。一連の騒動を通じて、一迅社は自らそういった意識のある会社だということを世間に晒している。

 世間に名を知られる一企業として、この対応はいかがなものか。同社の杉野庸介社長に取材を申し込んだところ、総務人事部名義で次のような答えが返ってきた。

「取材依頼の件、現在の作家様のツイートをご覧になっていただけているとは存じます。

私どもが特にコメントする必要はないと判断させていただきましたので大変恐縮ではございますが、取材に関しましては辞退させて頂きたく存じます。

何卒ご容赦下さいます様よろしくお願い申し上げます。」

 取材申込みの文書で記したのは「御社は執筆を依頼した時点で書面こそないものの出版契約は成立するものと考えているか否か」などの、ごくごく一般的な質問である。それにすら明確な回答をできないことが、この会社の体質を表しているといえるだろう。
(取材・文/昼間 たかし)

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