元・夢追い人が綴る“俳優奮闘雑記” 第4回

1舞台につき約10万円分! チケット販売ノルマを課せられる俳優たちの苦悩

 ただ、何より大事なのは、宣伝メールを送るタイミングだと思っていました。出だしに「いよいよ本番が迫ってきました……」と加えたりもしましたが、それはあくまでもこっち側の都合。相手側の都合、つまりそろそろ予定を決めてもらえそうな時期を狙ってメールをするのです。この時、決して一斉送信はしません。最初の宣伝メールもですが、常に個別に連絡します。

 また、住所がわかっている相手に対しては、手紙を書いたりもしました。手紙にはもちろん舞台の案内を書きますが、これも「調子はどうですか?」などなど、形式的にならないよう、相手の様子を想像しながら書いたんです。これは結構、効果がありました。

 こんな風に、単にチケットを売る為だけに連絡するのではなく、併せてコミュニケーションを取る方法で、私はノルマを達成していました。前回にも触れた通り、ひとり当たりのノルマはだいたい3000円くらいのチケットを30枚ほど売りさばくこと。つまり、平均で9〜10万円程度のノルマを達成しなければなりません。私の場合、ノルマを越えた分に関しては、あまりチケットが売れていない共演者の分にして売ったりもしていました。本来、共演者のノルマを肩代わりすれば、その分利益は上げにくくなるので、主催者側からは嫌がられます。なので、肩代わりはこっそりやってました。

 では、そもそもノルマを達成できないとどうなるか? 実は、私はありがたいことに達成できなかった事がないんです。そのため、あくまで見聞きした内容になりますが……ノルマを達成できなかったある共演者は、清算の日に誓約書にサインをさせられていました。「いつまでにいくら支払う」とか、ノルマ未達成分を自腹で払うという、そういう内容だったと思います。その共演者がきちんと払ったか、踏み倒したかどうかわかりません。ノルマの未払いで訴えられたという話は聞いた事がないので、おそらく法的な拘束力はないんだと思います。ただ、今私の後輩が劇団を主宰して東京で活動しているのですが、ある公演の後、ノルマの清算の日に2万円分足りなかった俳優がいて、まだ支払っていないようなんです。後輩いわく「どこまでも追いかけて絶対払わせてやりまよ!」とのこと。怖いですね(笑)。

 駆け出しの俳優には必ずと言っていいほどノルマは課せられます。そう考えると、俳優には演技力だけでなく、ある種の営業力も必要だということなのでしょう。

●SHINOBU
1983年、兵庫県生まれ。信州大学卒。「劇団山脈」出身の元俳優。同劇団では、脚本、演出も担当した。震災をテーマにした「関西少年」が話題となり、地元のテレビや新聞に取り上げられる。出演した主な舞台に、『水の話』(演出:中嶋しゅう)『血の婚礼』(演出:門井均)「黄金の刻」(演出:なかにし礼)「アセンション・ミロク」(演出:上杉祥三)など。

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