エロマンガやエロゲーも他人事ではない? 「日本ビデオ倫理協会」と“モザイク”の歴史に鑑みる自主審査団体の意味

 そして、1996年には、ソフト・オン・デマンドを中心に、インディーズ系各社による審査団体「メディア倫理協会(メディ倫/現コンテンツ・ソフト協同組合)」が発足。さらに、いくつかの制作会社によって独自の審査団体も設立され、ビデ倫による“審査”の独占状態は瓦解する。当初は“レンタル=規制の厳しいビデ倫”“セル=規制の緩い非ビデ倫”という棲み分けが定着していたが、2003年頃からこうした状況にも変化が見られる。低価格なセルビデオの攻勢に対して、ビデ倫加盟社もセルに力を入れるようになり、非ビデ倫各社の作品もレンタル店で取り扱われるようになったのだ。これにより、規制の厳しいビデ倫は苦境に追いやられる。結果、ビデ倫から脱退を表明する加盟社が増加していった。

 インディーズ系は、持ち味である“消し”の技術革新に注力。その結果、00年頃には「デジタルモザイク」の技術が登場した。それまでの“消し”は、スロー再生した映像に円形のモザイクを当て込んでいくもの。対して「デジタルモザイク」はPC上で1秒を30コマに分割して一コマずつ処理していくもので、性器ギリギリのところしかモザイクを施さない処理が可能となった。こうして、ヘア・アナルが見えている点でビデ倫よりも「修正が甘い」といわれていたインディーズ系の作品は、さらに「過激」なものへと進化。当初、「デジタルモザイク」は一コマずつ手作業だったため、一人が一日作業してモザイク処理できるのは映像の2分間程度といわれていた。しかし、その後2時間ほどの作業時間で映像の1分間をモザイク処理できる技術が開発され、さらに細かいモザイク処理も可能になっていった。

 こうした状況で、2006年8月にビデ倫は基準を変更。いわゆる「ヘアとアナル」の解禁を決定する。今回判決の出た摘発が行われたのは、それから一年あまり後のことであった。

 要は「セルビデオに合わせて審査基準を緩和したら、摘発されてしまった」というのが、この事件の大枠のように見える。実際、摘発対象とされたAVについて、ほかの審査機関からも「修正が甘すぎるのではないか」というクレームが摘発前からあったともされている。しかし、一方で「モザイク処理が甘すぎたのは一部の作品だけで、それもすぐに是正された」という証言もある。

 つまり、ビデ倫自体も薄すぎる“消し”については問題視、是正していたようだが、それでも警察当局によって“見せしめ”として摘発されてしまったというわけである。

 また、警察当局が容赦なく摘発を行った理由として、ビデ倫と警察のパイプが薄くなったことも噂された。ビデ倫では、2007年4月まで元警視正が事務局長を務めるなど、警察関係者の天下りが行われていたが、その後、警察関係者のポストは減少。この元警視正の退任後にはさらに高位の人物がポストに収まる予定だったが、結局は当人の病気を理由に立ち消えになったとされる。警視庁が摘発を前にビデ倫から警察関係者を引き上げさせたという説など、さまざまな噂があるものの、真相はいまだに明らかではない。

 いずれにしても、すでに事件から7年あまりを迎えて、当初起訴された5名のうち2名は死去するなど、時の流れを感じさせる。

 当局のさらなる介入を防ぐ意図をもって設立された後継組織・映像倫理機構に対して、「(業界内団体による審査組織ではなく)第三者を加えた組織に変えなさい」とアドバイスをして、その枠組みを作った法学者の清水英夫氏も、これを最後の大きな仕事として世を去った。

 いずれにしてもこの事件は、どんなに鉄壁の守りを固めても権力側は恣意に圧力をかけてくることを、エロマンガやエロゲーなどを含めたあらゆるエロメディアに再認識させた事件であった。でも、だからといってすべての自主規制が無駄であるとはいえない。不当な弾圧に対して堂々と立ち向かえる、そんな体勢が表現を扱う業界には常に望まれている。
(文/昼間 たかし)

世界のモザイク

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モザイクにもイノベーションがあったのだなぁ。

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