ゲーム実況は“グレー”のはず!? 「ネットには書いてない ゲーム実況者になるための本」で抜けていた最も重要な要素とは

2014.10.05

 9月29日、ゲーマー界隈に衝撃を与えるような本が発売された。その名も「ネットには書いてない ゲーム実況者になるための本」(エンターブレイン)。これを読めば本当に“ゲーム実況者”になれるのだろうか……。だがそれ以前に、ゲーム画面を無許可で使用しているゲーム実況は著作権的に“グレー”だと言われているが、この本はそれを職業のように公認する形で押し出している印象を受ける。果たしてどの様な内容なのか、実際に読んでみよう。

 ページをめくると、人気ゲーム実況者3人の特集だ。総勢8人のチーム『いい大人達』のメンバーとして知られる『ノッチ』や、格闘ゲームの実況で有名な『せんとす』、Minecraft(マインクラフト)動画でブレイクした『茸』といった人気実況者たちが「人気実況チームの屋台骨を支える毒舌系のメカニック」といったキャッチコピーとともに最大限のドヤ&キメ顔をしている。

 読み進めると、各実況者がどの様にゲーム実況に “オリジナリティ”をつけているかを明かしている。さすが人気実況者。手の内をさらけ出すこともいとわないというのか! しかも“3ヵ条”でまとめてあり、分かりやすい。例えば、『ノッチ』の「遊び心を忘れない」「音ズレが起こらないよう機材をチェック」や、『茸』の「遊ぶゲームの性質に合った編集をする」「視聴者のコメントはポジティブに解釈!」などだ。

 また、「実力派実況者のスタイルに学ぼう」といったコーナーもあり、個人から『チームボルト』といったチームまでさまざまな形態の実況者が紹介されている。インタビュー内では、「公式放送並みのクオリティにするため、さまざまな人から意見を聞いて組み立てる企画力」「動画を作る上で指針を決めるなど、予想外のドラマを演出することを心がける」「ゆっくり実況(テキスト読み上げソフトSoftalk系を使い、実況部分をソフトに読み上げさせる。読み上げソフトが“ゆっくり”または“ゆっくりさん”とあだ名で呼ばれているため、このスタイルの実況動画には“ゆっくり実況”の名が付く。)」など、それぞれの持ち味を公開しているため、これは参考になるだろう。

 しかし、このコーナーなどで見られた、実況者を二次元化したイラストは、なぜ“美化”されたものばかりなのか。歌い手にもよく見られるが、これについて疑問を持っている人も多かったりする。

 今度は「目的別オススメ機材特集」。“1万円以内”(プラン総額6725円)、“ハイクオリティ”(プラン総額35176円)と分かれ、機材の写真とともに解説が載っている。IO DATAのビデオキャプチャー『GV-USB2』5300円といった比較的手頃なものから、SKNETのビデオキャプチャー『MonsterX U3.0R』19000円弱という高価な物まであるが……。果たして、そんなに高価なアイテムが必要なのだろうか? 

 確かに機材も大切だが、前述の実況者のインタビューで『わいわい』が「クリアするまでのしゃべりを大事に使おう」と語っていたように、“個性や内容”の方がもっと重要ではないのだろうか。また、ゲーマーとしてはハイクオリティな機材を紹介する場にて、ヘッドセットマイクが写真と値段付きで紹介されていないことに疑問を抱く。確かにボーカル用のスタンドマイクは“高音質な音声が録音できる”一方、環境音や振動をより拾いがちだと思う点があるのだが……。スタンドマイク及びヘッドセットマイクの双方を写真と値段付きで紹介した方が、選択肢が広がるため、より参考になるのではないかと感じた点がある。

 だが、動画制作からアップロードまでの手順が書いてあるのは初心者にも優しいところだろう。ラストには、実況にオススメのフリーゲームや、多人数でわいわいできるアナログゲームなども紹介されている。これからゲーム実況を始めようとしている者に役立つ情報も見られた。さらに、2010年から毎年開かれているインディーゲームのコンテスト「ニコニコ自作ゲームフェス」から、昨年応募された299作品の内8作品のピックアップもあり、遊ぶだけにとどまらない楽しみも知ることが出来る。

 しかし、忘れてはいけない。前述もしたが、ゲーム実況はあくまで“グレー”。今年5月にYouTubeに動画をアップすることを許可した任天堂など、企業や作品によっては“OK”を出しているところもある。しかし、全面的にOKという状況ではない。ゲーム実況動画がここまで盛況している今、ソフトの売上を上げる役目をしていることもあって、ほとんどの企業が“黙認”している状態なのだ。

 だが、このことについて、「オススメフリーゲーム特集」に小さくコラム欄として“フリーゲームでもガイドラインを守ろう”と言うこと以外、本書で触れられている様子は見られなかった。

 また、本書の「実力派実況者のスタイルに学ぼう」というコーナーでは“人気を集めるためのポイントとは”という記述が見られた。「人気になりたい」ためにゲーム実況をするのも違うだろう。最近では「東京ゲームショウ」などといったゲームイベントに登壇する実況者もおり、その姿に憧れを抱く者もいるのかもしれない。しかし、ゲームはちやほやされるための道具ではない。

 それについて印象的なのが、『せんとす』が本書で語っている「売れるようなゲームを選ぶんじゃなくて、あなたが好きなゲームが絶対にあるでしょ、それをやった方がいい」という言葉だ。

 ゲーム実況が“グレー”であることと、“ゲームはちやほやされるための道具ではない”、この2点は、小中高生から大人まで忘れてはいけないファクター。「ゲーム実況者になるための本」と言うのならば、この点について分かりやすくまとめたページも欲しかった。
(文/二子生下無悪)

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