『オー・ドロボー!』(岬かつみ) 世界の泥棒に詳しくなれる!? 過剰なうんちくがドタバタ感を演出するライトノベル!!

 この発想はなかった! 第26回ファンタジア大賞で金賞を受賞した岬かつみ氏の『オー・ドロボー!』(富士見ファンタジア文庫)のことである。

 8月にスニーカー文庫で『大魔王ジャマ子さんと全人類総勇者』も世に出している岬氏だが、まず読むなら、この作品をオススメしたい。

 本作のあらすじを記すと、主人公の十四代目・石川五右衛門のところにアルセーヌ・ルパンの子孫(同姓同名の美少女)がやってきて、地中海の島で世に聞こえる大泥棒の子孫たちとお宝争奪戦を繰り広げる……というものである。

 うん、これを記しただけで、多くの読者は「ああ、なるほど」とすんなりと世界観を理解するのではなかろうか。大泥棒の子孫といえば、モンキー・パンチ氏の名作『ルパン三世』(双葉社)が知られるところだが、その名作の下地があるだけに、本作もすんなりと物語に入ることができる。

 さて、そんな本作だが、作者がやりたい放題を書いている自由な感じがドタバタ感を増幅させていて楽しめる。なにしろ、物語の舞台になる島は一見リゾート地だが、実は世界の犯罪組織にとっては楽園のような島。花屋で売っているのは怪しい草花だし、ショッピングモールに行けば「トンプソン」と名付けられたぬいぐるみが法外な値段で売られていたり……という具合である。

 そして、集う各国の泥棒の子孫たちも、中国代表は宋江の子孫の女のコ。アメリカ代表は、ジェシー・ジェイムスの子孫でやっぱり女のコ。……西部劇に詳しい人なら「ジェシー・ジェイムスは泥棒じゃなくて強盗団の頭目だろ!」と思うだろう。その通りで、そんなうんちくを地の文で記しながら、彼女はルールで禁止されている銃を構わずぶっ放す。このほか、韓国・北朝鮮代表は洪吉童、オーストラリア代表はネッド・ケリーと、ひたすらマニアなツボをついてくる“大泥棒の子孫”たちが次々と登場するのだ。

 そんな物語のヒロイン、アルセーヌ・ルパンは泥棒の技術力ゼロ! 取り柄はスタイルと料理という設定でキャラ立ちまくりである。そんな彼女に料理を振る舞われた当代の五右衛門もまた読者を唸らせる。

「(前略)どれも信じられないくらいに美味しいし、特に揚げ物が出て来ないのがいい。我が家としては、揚げ物だけは絶対にいただけないからね」(『オー・ドロボー!』より)

 おわかりだろうか? 伝承によれば安土桃山時代の大泥棒・石川五右衛門は、豊臣秀吉の命によって水の代わりに油を使った釜ゆでで処刑されたといわれている。そうした豆知識を知っていると唸り、噴き出すシーンが満載なのだ。そうとう作者はうんちくを語るのが好きなタイプらしいのだが、ちゃんと「大ドロボウ名鑑」というページで元ネタの解説をしてくれる、読者に優しい構成となっている。

 とにかく、本編で進行するストーリーとは別に散りばめられたうんちくで、読んでいるうちに世界各地の盗賊、義賊の類いに詳しくなってしまう一冊。いやあ、ラノベを読んで雑学の知識まで手に入るなんて、なんてお得なんだ! 普段のラノベの楽しみ方とは違う、新たな楽しみを見いだせた本作。しかし、続巻はどんな展開にするつもりなんだろうか?
(文/大居 候)

金田一耕助VS明智小五郎 (角川文庫)

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ミステリのパスティーシュ的なものだと思えば。

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