“アニメ規制論”検証! 『TVタックル』をめぐり過熱した論争を振り返る

■メディアは有害か?

 次に、アニメ以外の各種メディアについて“有害性”がどこまで検証されているかを見てみたい。アニメ規制論の参考にできるはずだ。

 国立国会図書館の情報ポータルサイト「カレントアウェアネス・ポータル」では、子供の情報行動に関する調査研究のレビューとして「各種メディアの心理学的な影響・発達的研究」を公開している(http://current.ndl.go.jp/node/8473)。読書・テレビ・テレビゲーム・インターネットそれぞれが人間の心理や行動にどう作用するか、各種研究の概要を分かりやすくまとめたものだ。残念ながらアニメ・マンガ単体についてはまだ充分な研究がなされていないようだが、役立ちそうな情報が豊富なので一読の価値はある。

 読む時間がない人のために要点だけ本文中から引用すると、以下の2つになる。

【1】メディア利用の影響については、テレビの暴力シーンの視聴によって認知発達が阻害されたり、暴力的な人格になる、テレビゲームやインターネット使用によって社会的不適応性が高まるなど、悪影響が懸念されている。しかし,この懸念に一致する結果は必ずしも実証的に示されていない。

【2】一方、メディア利用のよい影響として,テレビ視聴によって認知能力が高まったり、むしろ攻撃性が低下する場合や、テレビゲームによって社会性や認知的処理能力が上昇したり、インターネット使用によって情報活用能力や社会性が上昇したり対人関係が拡大するといった結果も報告されている。

 要するに、「ゲームやテレビが悪影響を与えると断定できるほどの実証的な研究結果は揃っておらず、逆にこれらのメディアの利用によって好ましい影響が出るというデータもある」ということだ。

 もし都合よく「残虐なテレビゲームをプレイした直後に被験者の攻撃性が上がった」という研究結果だけを採用しても、そこから犯罪の実行可能性やアニメ・ゲームといった各メディア間の違いといったさまざまな検証を多方面から繰り返し、ようやく“アニメの表現を規制すべきかどうか”という議論のスタート地点に立てるはずだ。

 番組にて岡田氏が「規制ありきの発想」と規制派の意見を糾弾したように、筆者個人としても『TVタックル』を見て、こうした実証的データを示さないままお題目のように“アニメは有害”と繰り返す規制派の人々が、どうも信用ならないように感じられた。

■“犯罪者を逮捕してみればアニメ好きだった”は規制推進の理由になり得る?

 前項とも関連するが、“犯罪者を逮捕してみればアニメ好きだった。だからアニメは犯罪を誘発するに違いない”という主張を理論的な裏付けなしに振りかざすのは非常に危うい。番組で江川氏が「犯罪を犯した人がごはん食べてました。『ごはん危ないから…』そうじゃないですね」と主張したように、「アニメ好き」の部分を別の何かと入れ替えても、たいてい意味が通ってしまうからだ。

 こうした恣意的なレッテル貼りがどれほど危険か知りたい人は、「DHMO」とネットで検索してもらいたい。「DHMOがいかに危険か」という有名なジョーク(皮肉)から、どれほど私たちはたやすく騙されてしまうかが感覚的に理解いただけるだろう。

 また、もし仮に“犯罪者グループに限ってアニメ好きが多かった”というデータが出たとしても、両者の因果関係を立証しなければならない。

『統計学が最強の学問である』(ダイヤモンド社)で知られる東京大学大学院助教の西内啓氏も、記事「ゲームと犯罪の因果関係は明らかにできるのか?——フェアな比較の重要性」(https://cakes.mu/posts/375)の中で、「たとえば親に対するアンケート調査の結果、子どもが暴力的なテレビゲームで遊んでいたかどうか、という質問項目と、子どもの犯罪・補導歴の有無の関連性を分析し、少年犯罪者のほうが暴力的なテレビゲームで遊んでいる割合が高かった、という結果が得られたとしても、暴力的なテレビゲームを規制して犯罪率が下げられるかどうかはよくわからないのだ」と述べている。

 ゲームにせよアニメにせよ、因果関係を曖昧にしたまま“犯罪者が○○を好きだったから、それは有害である”と安易に結論づけることは、事実を大きく見誤らせる危険性を秘めている。

マンガはなぜ規制されるのか - 「有害」をめぐる半世紀の攻防 (平凡社新書)

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”ループもの”ばりに繰り返してても仕方ないので、建設的な議論を。

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