まさか!? ミッフィーが万引き! されたんじゃなくて、したんだよ!

 次の日になってもその気持ちは消えない。うさこちゃんの様子が変なことに気づいたお母さんが「どうしたの」「なにかあったの」と聞くと、うさこちゃんは小さな声で答える。「きのう、おみせにいったとき、きゃらめるを とったの。それで、いまも ぽけっとに あるの。」

 驚いたお母さんは、今すぐお店に返しに行きましょうと言うのだが、そのページに描かれたうさこちゃんの目には大粒の涙が一滴。

〈うさこちゃんは、おみせに いくのは
 いやでした。あんなこと しなければ
 よかった。ああ、はずかしい。〉

 やはり、うさこちゃんとて、お店に盗品を返しに行くのは勇気のいることで、躊躇があるようだ。

〈でも、これは じぶんの したことです。〉

 うさこちゃんは勇気をふりしぼり、お母さんに付き添われ、キャラメルを返しに行く。そしてお店で「こんなことは もう にどと ぜったいに しません」と言うのだった──。

 あのおとなしそうなミッフィーが万引きをしていたとは驚きだが、それ以上に驚かされるのは、その描き方だろう。同書には、誰のひと言の説教も、罰も、ない。ほんの12枚の絵と短いテキストで、罪を犯したうさこちゃんの心の揺れだけが、実に細やかに描かれている。つい出来心で万引きしてしまったが、罪悪感にさいなまれ、でも誰にも言えず、ひとり苦しむうさこちゃん。読んでいるこちらも、胸がつまりそうだ。

 こうした一見シンプルに見えてものすごく繊細な表現は、ミッフィーの生みの親であるグラフィックデザイナー、ディック・ブルーナの持ち味だ。

 太いシンプルな線で描かれたミッフィー、素人目には「1分くらいで描けるんじゃないかな」「目をつぶってても描けるんじゃないかな」と思ってしまいそうなほどだ。しかし『ディック・ブルーナのデザイン』(芸術新潮編集部編/新潮社)によると、ブルーナがその線を描くスピードはおそろしく遅いのだという。実はあの太くてシンプルな線は、なんと、点描画でも描くように、短い点をつないでゆき、描いているのだ。実際、ブルーナの絵をよく見ると、その線は少し震えているように見える。

 絵だけではない。祖母の死(『うさこちゃんのだいすきなおばあちゃん』)、きょうだいの誕生(『うさこちゃんとあかちゃん』)、クラスメイトの差別事件(『うさこちゃんとたれみみくん』)、そして、この万引き事件。様々な出来事を経て、うさこちゃんはその内面も少しずつ成長を遂げているのだ。先日、創作活動から引退していたことがわかったディック・ブルーナ。いま一度「うさこちゃん」シリーズを読み返してみるのもいいかもしれない。

 ちなみに、記事のなかで「ミッフィー」といったり、「うさこちゃん」といったりしたが、どちらも本名ではない。本名はオランダ語で「ちいさなうさぎ」という意味の「ナインチェ」。「ミッフィー」は英語圏の呼称で、「うさこちゃん」は絵本の翻訳者である石井桃子による日本語訳だ。
(酒井まど)

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