声優誌レビュー「Pick-up Voice」2014年9月号

ジャジーで、サウンドはカラフル…音楽系出版社ならではのこだわりと言い回しが気になる「Pick-up Voice」

2014.08.09

――昨今の声優人気に伴い、気がつけば声優専門誌も定期・不定期を合わせて10誌以上が刊行されている。そんな“声優誌 群雄割拠”の時代にあって、各誌はどのような記事・企画をとりあげているのだろうか? 主要な声優誌を中心に、目玉記事や気になる企画などを紹介しつつ、各誌の特徴を分析していく――

Pick-upVoice」(音楽専科社)2014年9月号。

■「Pick-upVoice」2014年9月号
出版社…音楽専科社
発売日…7月26日(毎月26日発売)
価格……1139円+税
創刊……2007年

「Pick-up Voice」9月号は、表紙&巻頭大特集に3rdミニアルバムをリリースする神谷浩史、裏表紙&巻末大特集にはニューシングルをリリースの三森すずこが登場。

 いつもは巻頭から読み進めているが、せっかくの両面表紙なのだから、たまには巻末から……というわけで、今回は三森すずこのインタビュー記事からスタート。ニューシングル「せいいっぱい、つたえたい!」に関する内容だが、興味深いのはインタビュアーの感想だ。「Bメロの3拍子はワルツっぽく、2番のAメロではジャジーになったり、サウンドもカラフル」といったように、曲調に関する具体的な指摘が飛び出している。

 音楽に関する話題なのだから、こうした用語が出るのは当然のことで、「声優グランプリ」や「声優アニメディア」でも曲調に触れた質問は多い。しかし「Pick-up Voice」は、こと音楽に関する話題になると、他誌以上に表現の具体性が強まるのだ。これは、やはり音楽専科社が抱えるライターならではの特徴と言えるのかもしれない。

 ただし、こうした専門知識が必ずしも良いとは限らない。いや、専門知識はあるにこしたことはないが、専門用語の乱発が問題なのだ。たとえば、今月号で使用された同誌の言い回しを挙げると、「コンセプチュアルな一枚」「アッパーでワクワク」「ブラスがにぎやか」「キレイなファルセット」などがインタビュアーの口から語られている。「コンセプチュアル」や「アッパー」などはわかるかもしれないが、音楽用語に馴染みが薄い人には「ブラス(※金管楽器)」や「ファルセット(※男性が通常よりも高い音域で歌う技法/裏声)」という単語はピンと来ないのではないだろうか。

 そして、きわめつけは「ラスサビ」と「オチサビ」という表現だ。雰囲気的に「その曲の終盤、最後のサビの部分」を意味していることはわかるが、両者に違いがあるのかどうかがわからない。今月号では岡本信彦の記事で「ラスサビ」が使用され、蒼井翔太の記事で「オチサビ」という用語が使われている。

 気になったので、音楽製作会社に勤務する友人に尋ねてみたところ──

「ラスサビとオチサビの違いなんて知らん。そもそもそんな言葉、どちらも仕事で使ったことがない。使ってる現場もあるかもしれないが、少なくとも自分の周りでは使われたことがない」

 ──ですって。

 ネット上を巡回すると、しばしばラスサビやオチサビという表現も目にするが、両者の違いについてはわからないままだった。スラングに近い表現だけに、今月号はこうした表記の揺れが気になってしまった次第だ。せっかく同誌には音楽に造詣の深いライター陣が揃っているのだから、今後はよりいっそうの紙面全体の統一表記・読者と専門性のバランス感覚の向上に期待したいところだ。

 ちなみに小倉唯の記事では、彼女が「MVでボーリング」していたとのこと。思わず「掘削作業中に温泉を掘り当てて大喜びする小倉唯」の姿を想像し、はからずも優しい気持ちになれたので、この表記に関しては正解でイイと思います。
(文/神楽坂隆)

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