切り捨てられたマンガがネットで復活――出版社への“反撃手段”を得た現代の描き手たち

切り捨てられたマンガがネットで復活――出版社への反撃手段を得た現代の描き手たちの画像1「ニコニコ静画」で自主的に公開されている機械人形ナナミちゃん

 さる6月29日、マンガ家・やまもとありさ氏が「有害図書指定にあたる恐れあり」という理由で連載中止を言い渡されたことについて、Webマンガサイト「ぜにょん」(コアミックス)への不満を自身のブログで告白した。やまもと氏が人気マンガ『進撃の巨人』(諫山創/講談社)でアシスタントを務めていたこと、諫山氏からもブログ上で怒りのコメントが述べられたこと、初連載作品だったこと、掲載予定のわずか2日前に中止が告知されたことなどが重なり、ネットユーザーの間で話題となった。参照記事

 すでに5話分まで描き終えていたというやまもと氏の作品『あいこのまーちゃん』。このまま読者の目に触れないかと思われていたが、意外なところから救いの手が現れた。『海猿』『ブラックジャックによろしく』などのヒットで知られる佐藤秀峰氏のWebマンガサイト「漫画onWeb」外部参照に、晴れて掲載されることとなったのだ。現在は第1話のみが無料公開されており、佐藤氏の『ブラックジャックによろしく』をも超えて閲覧数トップに躍り出ている。やまもと氏のブログによると「二話以降は公開は未定です、公開できなくても、やりたいことがたくさんあるので最終話まで描きます」(原文ママ)とのことだ。

 実際に第1話を読んでみると、たしかに“女性の生理”というデリケートなテーマを扱ってはいるが、なぜこのレベルの描写で有害図書指定にあたると編集部が判断したのか、あらためて理解に苦しむ。たとえば“秋田書店の赤い核実験場”こと「チャンピオンRED」にならばなんの問題もなく掲載されているはずと、筆者には思える。読者のコメントは「どこが有害かわからない」「ただただ下品だと思いました」など賛否が分かれており、今度もし2話以降が公開されればどんな評価になるか楽しみなところだ。

 また、“お蔵入りになるはずだったマンガが思わぬところで復活して脚光を浴びる”事例が、『あいこのまーちゃん』以外にもう1つ注目されている。マンガ家・木星在住さんが600ページにわたるネーム(マンガの設計図)を出版社から一方的にボツにされ、それを画像投稿サイト「ニコニコ静画」で自主的に公開したのだ(外部参照)。なんと、こうして公開された『機械人形ナナミちゃん』は別の出版社の目にとまり、このほど単行本化が決定したという。

 これらの例に限らず“編集部(出版社)の身勝手な都合で連載の場を奪われる”ことは過去から今に至るまで数えきれないほどあった。新人ではなく中堅・ベテランのマンガ家でさえ「自分の作品を掲載している雑誌が休刊するということを直前になって知らされた」とブログやツイッターで暴露することが少なくない。その究極は2012年に起こった“「コミックキューガール」創刊日に廃刊”事件だろう。この件に関する関係者のツイートを読む限り、出版社(実業之日本社)の上層部が強引に廃刊を決定したらしく、編集者すら直前まで知らされていなかったようだ。当然、連載オファーを受けていたマンガ家たちは続く2話以降の制作に全力を注いでいた時期で、廃刊が知らされたとたん彼らによる阿鼻叫喚のツイートが見られた。

 いまだこうした“書き手を理不尽に切り捨てる出版社”が後を絶たないのは、マンガ家と出版社のパワーバランスにまだまだ大きな開きがあるからだろう。なんの後ろ盾もないフリーランスと出版社(特に大手)とでは、利害の対立があった時、弱い側が一方的に泣き寝入りする結果になることが多い。筆者はマンガ家ではなく文章書きだが、やはり似たような経験がある。某大手Webメディアから連載を依頼され引き受けたものの、入稿後に突然「営業担当が連載ページに載せる広告を取ってこれませんでした」という理解不能な言い訳をされ、一方的に掲載中止させられたのだ。もちろんギャラも取材経費も支払いなし。フリーの書き手なら、似たような経験をしている人は多いのではないだろうか。

 そんな中、出版社を介さず作品を発表できる「ニコニコ静画」や「漫画onWeb」のような場が増えてきたことで、マンガ家にとって“泣き寝入り以外の選択肢”ができたのは良い傾向だと言えるだろう。出版社の都合に振り回されることなく、1つでも多くの才能が世に出てくるのを期待したい。
(文/浜田六郎)

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