ロシアから来た美人声優・ジェーニャ! なぜ彼女は日本のオタク業界を目指したのか?

 7月2日から6日にかけて、マンガ、アニメ、ゲーム、アイドルといったポップカルチャーから、茶道、書道、武道など日本が誇る伝統文化など、ありとあらゆる「日本文化」を扱った博覧会「JapanExpo 2014」が、フランス・パリにて開催された。ニュースなどを通じて、その盛り上がりぶりは日本にも伝えられているが、今や「アニメ」は世界中のオタクを熱狂させるグローバルなコンテンツとなっていることは、いまさら言うまでもないことだろう。そんな中、日本のオタクカルチャーに魅了された一人の外国人女性が、「日本のオタク業界」で活躍している。

 彼女の名はジェーニャ。生粋のロシア人だ。彼女は、思春期に日本のアニメに魅了された後、2005年より日本で芸能活動を開始。以降、現在に至るまで10年にわたって、日本のオタク業界の第一線でマルチに活躍し続けている。

 今回は、そんな彼女の波乱万丈のオタク半生について尋ねてみた。なぜ彼女は日本を目指したのか。そして、外国人からは、日本の声優業界はどう見えているのだろうか……?

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──ジェーニャさんは2005年に来日して以降、アニメ、ゲーム、マンガなど日本のオタク業界を中心に、実に10年にわたって活躍されているんですよね。

ジェーニャ はい。声優としては2009年に『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』でデビューして以降、アニメ、ゲームに出演しています。

 アニメは、『チェブラーシカ』『クレヨンしんちゃん』『にゃんこい!』など。ゲームの代表作と言えば、『武装神姫 BATTLE RONDO』のエスパディア役と『アンジュ・ヴィエルジュ』のユリヤ役ですね。ロシア関連のキャラクターが多いです。

 また、テレビの「顔出し」のお仕事も多く、『テレビでロシア語』(NHK)のレギュラーを始め、『NHK高校講座:世界史』や『東京カワイイTV』(NHK)などに出演しています。

 来日してすぐのタイミングに、アニメ『ブラックラグーン』で小山茉美さんのロシア語監修をしたのをはじめ、『機神大戦ギガンティック・フォーミュラ』、『聖痕のクェイサー』、『ラストエグザイル―銀翼のファム―』(ヴィオラ役でも出演)、『エスカ&ロジーのアトリエ ~黄昏の空の錬金術士~』といったアニメ、マンガ、ゲームの言語指導もしています。業界内で一番ロシア語を指導しているんじゃないかな。映画やアニメでロシア語が出てくると、まずジェーニャが行くという構図ができています。

──そのように、今や日本のオタク業界に欠かせない存在となっているジェーニャさんですが、もともと日本のアニメが大好きだったとうかがっています。そこで、まずはジェーニャさんとアニメの出会いから教えていただけないでしょうか。

ジェーニャ 私はソ連生まれなんですが、父が特殊部隊・スペツナズの中佐だったことから子供の頃はチェコに住んでいました。そこで、ソ連と外国の文化の差にすごく驚いて、とりあえず大人になったら外国に住もうと思っていました。そんな中、16歳の時にテレビで『美少女戦士セーラームーン』を見て、「何なの、このアニメ」って衝撃を受けたんです。食事文化や学校の風景、男女関係の描き方がそれまで見てきたアニメと全然違うし、神社みたいな見たこともない建物も出てくる。その時のアニメはボイスオーバー(原語の音声を残しつつ、翻訳された音声をかぶせる手法)だったので、英語でもない不思議な言葉もうっすら聞こえていました。それで当時出始めたばかりのインターネットで調べたら、どうやら『セーラームーン』は日本のアニメで、その言葉は「日本語」だと判明して「日本は『サムライ』『ゲイシャ』だけの国じゃなかったんだ」って知りました。

──当時、ロシアや周辺国では、アニメは放送されていましたか?

ジェーニャ あるにはあったんですけど、長いソ連時代はエンタテインメントも限られていました。アニメも人形アニメの『チェブラーシカ』みたいな作品くらいしかなくて、日本みたいにいろいろな作品はありませんでした。ソ連崩壊後、アメリカから「ディズニー」や「マーベルヒーローズ」『ニンジャタートルズ』といったアニメが入ってきたりもしたのですが、『セーラームーン』はそれらとは全く違うアニメというインパクトがありました。アメリカのアニメってどちらかというと男性向けじゃないですか。そんな中で、「こんなに女の子が共感できるアニメってあるんだ!」って目から鱗が落ちたような感覚でした。男女ともに本当にすごいブームで、当時、みんなで「私は(月野)うさぎで、あなたは(水野)亜美ちゃん」ってあだ名をつけたりしてました(笑)。実家があったのが、ロシアで3番目に大きな街・ノヴォシビルスクだったのですが、そこが札幌と姉妹都市なんですね。そこにシベリア北海道文化センターという場所があって、『セーラームーン』と出会ってからはセンター内にある日本語の教室に通いながら、アニメ部みたいなものを起ち上げて、部長を始めました。

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──ジェーニャさんは、いわば『セーラームーン』に影響を受けた、ロシアのオタク第1世代といったところですね。ロシアでのオタクライフはどういったものだったのでしょうか。

ジェーニャ モスクワなど違う地方のアニメファンと会ったり、アニメを録画したVHSを交換したりしていました。当時はまだネットもなくて、なかなかアニメ自体も手に入らないので、VHSの3時間テープに2時間の劇場作品を入れて、余ったところに何かテレビシリーズのアニメを入れるという感じでした。そのどこから持ってきたのかわからないアニメを持ち寄ってみんなで見たりしていました。だから、今みたいな“1話切り”とかはせずに、全部テープが擦り切れるまでじっくりと何度も見てました。

 その後、大学に入学して、インターネットを通じてモスクワとかにいるオタク仲間と連絡を取り合うようになりました。ところが、ある時期から友達が急に増えてきて、一人一人とメールで連絡を取りきれなくなったので、サイトを起ち上げて日記を書いたり、自分でアニメソングを耳コピしてアップするようになったんです。そしたら一日に何千人もアクセスするようになりました。特にサイトのデザインは、若い女の子にたくさんまねされるようになり、デザインはそのままコピペされて名前だけ違うみたいなサイトがたくさん生まれました(笑)。

──ジェーニャさんが、ロシアのオタク女子の最先端だったんですね。

ジェーニャ 当時、すでにパソコンにアクセスできるオタクの男性は多かったけれど、その頃から女の子のオタクも増えていった印象です。私がロシアの人に言いたかったのは、「アニメはかっこいいものだけじゃなくて、かわいいものもありますよ」ということです。「カワイイ」という単語もそのまま「ロシア語」化して紹介したりしましたね。とにかく自分が好きなものをなるべくたくさんの人に知ってほしくて、それを無邪気に「こんなのあるよ!」っていう気持ちで言って回っている10代でしたね。

──その後、どのようなきっかけで来日することになったのでしょうか。

ジェーニャ 私のサイトを見つけた日本人がブログで紹介してくれたところ、それが「2ちゃんねる」に掲載されたことがきっかけでした。その結果、それまで一日当たり数千だったアクセス数が急に数万まで増えて、たちまち一か月分のデータダウンロード量をオーバーしてしまい、サーバーがダウンしてしまったんです。その時は「キターーー!」って思いました。当時は、まだ「キターーー」という言葉はありませんでしたけど(笑)。

 その後、私のファンの方の何人かとテレビ局の方が力を合わせて、私を日本に招待してくれて、まずは父と二人で一週間滞在することにしました。秋葉原に行ったり、アフレコ現場を見学させてもらって「こんなにすごい経験ができるなんて」と感動もしたのですが、アニメ業界で働くかどうかはとりあえず大学を卒業してから考えることにしました。その後、実際に卒業する時期にロシアで就職活動もしてみたんですが、「そんなのは誰でもできる」と思ったのと、友達の勧めがあったことから、再び来日することにしました。最初に来日した時にお世話になった方に部屋を貸してもらったり、サポートしてもらう形で日本で声優を目指して活動をスタートしました。

■面前で心ない言葉も… 日本で声優として活動する難しさをどう乗り越えるか?

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──そこから声優になるまでの道のりは、大変だったのではないでしょうか。

ジェーニャ そうですね。最初に言ったように、まず来日した次の月くらいに『ブラックラグーン』のロシア語監修のお仕事をさせてもらいました。声優の小山茉美さんに3話分ほど指導させていただいたのですが、監督にお願いしてその後も毎回アフレコを見学させてもらいました。まだ日本語もよくわからないし、アフレコ現場では何が起きているのかわからない。でも、とりあえず見ていようと思ったんです。

 それから2年くらい同人CDを作ったりコミケに参加してたりしたんですが、自分としてはやはりメジャーな場所で働きたいという思いがありました。だから、その期間はとにかく「事務所を探しています!」って営業し続けていました。そんな時に、また茉美さんが韓国ドラマでロシア語をしゃべる役を演じることになって、再びロシア語指導をさせていただくことになったんです。その現場でお会いした事務所の一つ・メディアフォースの方がすごく私を買ってくれて、そこから念願の事務所所属が決定したんです。

──来日から2年で事務所に所属ということで、地道な営業活動が実ったわけですね。

ジェーニャ それまで声優の勉強というものをしたことがなかったので、まずは事務所内のスクールで勉強して色々とお世話になりました。アフレコ現場にも通うようになりましたし、タレントとしてテレビやラジオへの出演も増えました。勉強をしながら少しずつレベルをあげて、夢だった声優のお仕事させていただいていました。ただ、2年くらい経った頃に最初に目をかけてくださった方が辞められてしまって、それをきっかけに自分も81プロデュースさんに移籍することにしました。ただ81プロデュースってすごく大きくて、素敵な事務所なんですけど、それでも私みたいなタレントを扱う前例がなかったみたいで、売ることにすごく苦労されたようです。だから、この5月31日に一念発起してフリーになって、次の活動を模索しているところです。

──今後はフリーとして活動される予定のジェーニャさんですが、どのようなビジョンをお持ちですか?

ジェーニャ 自分としては声優として活動したいという思いが一番強いのですが、今はタレントから声優の仕事を始める方も多い時代です。それもあって、フリーの道を選んだんです。だから自分も「タレント活動をしているけど、実は声優」という風な展開ができればと考えています。自分がYouTubeとかに動画を上げると、(日本語の達者さから)「この子、声を吹き替えられてるよね」とか言われるので、「いや、自分でしゃべってます」っていう具合に、自分のギャップを生かしたいです。

──外国人が日本のオタク産業に憧れることはあっても、実際にそこで働くことはまだまだ難しいみたいですね。

ジェーニャ マンガ家や音楽方面はまだしも、声優は本当に難しいです。ただ外国人というのはプラスな面もあって、なぜか日本人って外国人に憧れを持っているので、そこはいい面だと思います(笑)。一方マイナス面は、声優という仕事で言うと、顔を見ただけで声を聞こうとしてくれないことです。「まさかこんな顔で日本語をしゃべるわけないだろう」と思われている。直接お話ししても、「なんでわざわざ外国人を使うの?」って面と向かって言われたこともあります。

──それはなかなかキツイですね……。

ジェーニャ 逆にイベントとかで、顔を生かした声優のお仕事もありますけどね。あと日本語に関しては、どうしても日本人には勝てないというのが正直なところです。かと言って外国人役でも採用されることもありません。英語だけの役でも、ロシア人の役でも日本人が選ばれます。私はというと、そこに指導しに行くわけです。そういう時は現場で笑って、帰ってよく泣いています。まあ、自分はドMなんだと思います(笑)。気持ちとしてはすごく辛くはあるのですが、たぶん今まで出会ってきた音響監督さんも、私がかわいそうだと思ってくれているから(起用されるん)じゃないかな……(苦笑)。

 でも、5年前の自分はここまで日本語はしゃべれなかったし、今から5年後、自分の日本語がどこまで成長しているか分かりません。たとえアニメの仕事はなくとも、洋画の吹き替えもあります。とにかく誰かが前例を作らないといけないとも思います。

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──ジェーニャさんが、声優としてのみならず日本の作品で、ロシア語にかかわるお仕事をされる理由はなんでしょうか?

ジェーニャ やっぱりアニメの中でも正しいロシア語、英語を聞きたいからです。昔は、まさか海外でそんなにたくさん日本のアニメが見られるなんて想像してなかったから、そこは適当でもよかったと思うんですが、今はネットなどを介して、すぐに海外でもアニメを見ることができるグローバルな時代です。実写版『パトレイバー』でもお仕事をさせてもらったのですが、プロデューサーの方もなるべく正しい言葉を使おうと考えられたそうです。だってあんなに予算をかけて、いろんな役者さんが出てくる映画なのに、適当なロシア語が流れてきたらダサいじゃないですか(笑)!

 それにオタクってやっぱり細かいディテールにこだわりますからね。海外のオタクも、日本のオタクと同じように細かいところまでチェックするんです。すぐに一時停止して一瞬出てくるものでも読み取るんです。だから間違えることは許されません。

──これは失礼な言い方かもしれませんが、ロシアで活動された方が引く手あまたなんじゃないかと思うのですが。

ジェーニャ 確かにそういうことも言われます。でも私は日本のオリジナルアニメの声優として、日本語で活動したいですね。だって海外のアニメファンは、吹き替えを求めていないんです。自分もそうでしたが、字幕で日本の声優さんの演技を聞きたいんです。それに自分が日本のアニメに欠かせない存在になれば、日本のアニメに恩返しできるというか認めてもらえるかもしれない。それは誰もまだやったことがないことなので、やってみたいことです。いずれはロシア向けに何かコンテンツを作れればとも思うけれども、やはりこれからも日本で仕事をしていくために、もっと日本における実績を残していきたいと考えています。

 日本で声優として活動を始めてまだ5年。まだひよっこの新人です。日本の声優業界は年齢に厳しいという現実はあるんですけど、そこは考えないでひとまずやってみようと思っています。色んなお仕事してきましたが、やっぱり、声優のお仕事している時は、一番の幸せを感じます。これからも自分の物語が続くといいなあと思います。

──がんばってください。応援しています!
(構成・文/有田俊[シティ・コネクション])

■ジェーニャ公式ブログ
http://ameblo.jp/jenya/
■ジェーニャ ツイッターアカウント
https://twitter.com/jenya_jp

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破 EVANGELION:2.22 YOU CAN (NOT) ADVANCE.【通常版】 [Blu-ray]

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ロシア語オペレーター役、ロシア語翻訳を担当しているとのこと。

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