安田理央の「特殊古書店ダリオ堂」 第7回

まるで“原作本”! 小説化された『宇宙戦艦ヤマト』のハマり具合が妙にしっくりくるワケ

――ようこそ、「特殊古書店ダリオ堂」へ。当店では、ちょっと変わった本たちを皆様にご紹介していきましょう。

140712_rio_H.jpg「熱血小説 宇宙戦艦ヤマト」(高垣 眸 著/オフィス・アカデミー/1979年)

 1974年にテレビ放映され、本放送時は低視聴率のために打ち切りとなったものの、その後に人気が盛り上がり、一大ブームを巻き起こしたアニメ『宇宙戦艦ヤマト』。『ヤマト』がなければ、日本のアニメ文化が花開くこともなかったと言われる、歴史的名作です。

 当時小学生だった筆者も、『ヤマト』には夢中になりましたよ。

 その『宇宙戦艦ヤマト』ですが、もともとは戦後まもなく少年向け雑誌に連載されていた“空想科学小説”で、その愛読者であったプロデューサーの西崎義展氏は、「いつかこの小説を自分の手で映像化してみたい」と夢を描いていたのでした。その原作こそが、“今回紹介する『熱血小説 宇宙戦艦ヤマト』です……。

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 ……なんて、をつきたくなってしまうほど、この本は不思議な存在なのです。いや、そうした経緯があったと思ったほうが、むしろ自然というか。

 実は、この本が書かれたのは劇場用アニメ第2作『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』が公開され、ヤマトブームが絶頂を迎えていた1978年(発売は1979年)のこと。

 しかし、この小説、どう読んでも戦前か、戦後すぐくらいのテイストなんですよ。

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 潔い進の答えが打てば響くように返ってきた。一触即発、一つ誤れば大爆発を起こして自分たちの命ばかりか、ヤマトまで木っ端微塵に吹っ飛ぶ恐るべき機雷にとりついて、人力でそれを排除してヤマトのために通路を開くという、正に決死も決死、死中に活を求める至難の作業だが、これを咄嗟に思いついた沖田艦長もさる者ながら、なんの躊いもなく命令を実行しようとする古代進も男の子だ。

 おお、なんとクラシカルかつ血沸き肉踊る文体でしょう。とてもYMOがデビューした1978年に書かれたものだとは思えません。

 それもそのはず、この小説を書いたのは、戦前に『快傑黒頭巾』『豹(ジャガー)の眼』などの少年向け小説で大人気だった作家・高垣眸が、テレビアニメ『宇宙戦艦ヤマト』を“ノベライズ”したものなのです。

 この時、高垣先生は御年80才。いや、どういう経緯でこの企画が持ち上がったのは不明なのですが、あとがきを読むと、どうやら高垣先生のファンだった西崎プロデューサーが強引にお願いしたようです。発行元も西崎プロデューサーの会社、オフィス・アカデミー。きっと夢だったんでしょうねぇ。

 SFアニメと『快傑黒頭巾』の作者、どう考えてもミスマッチな組み合わせだと思うでしょうが、読んでみるとこれがなかなかハマってるんですね。もともと『ヤマト』自体が、かなりドメスティックなカラーが強いアニメですから。この「空想科学小説」テイストが、しっくり来るんですよ。最初に書いたように、こっちが原作で、それを現代風(当時)にアレンジしてアニメ化したんじゃないかと思えてくるくらい。

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 もういきなり特攻隊賛美は出てくるは、ガミラスの時限爆弾装置をチクタク音を頼りに探すは、波動エンジンは排気ガス出してるわ、と時代のかかった描写がてんこ盛りなんですが、『ヤマト』自体、「宇宙空間には大気があって、重力もある」としか思えない描写の多いアニメでしたからね。むしろ自然に思えてきます。

 挿絵もマンガチックなペン画で、松本零士先生ともずいぶん違うタッチなのも、また味わい深いです。

 デスラーが、ものすごくバカっぽかったり、スターシャがデスラーからの電話の後に「まあ嫌だ。でもあのガミラス人、またヤマトを七色星団あたりで襲うつもりなのよ。なんとか力になってあげなくっちゃ。ああ、気持ちが悪い」なんてつぶやくようなおばちゃんキャラになってたりするあたり、原作ファンにはキツイかもしれませんけどね(笑)。

 ちなみにこの後、高垣先生は『凍る地球』『恐怖の地球』『燃える地球』という三部作のSF小説もお書きになったとか。そっちも読んでみたくなりました。

安田理央(やすだ・りお)

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1967年、埼玉県生まれ。主にフリーライター。及びアダルトメディア研究家、ニューウェーブ歌手、など。主な著書に「日本縦断 フーゾクの旅」 (2004年 二見書房)「エロの敵 今、アダルトメディアに起こりつつあること」(2006年 翔泳社 雨宮まみと共著 )、「45歳からのアニメ入門」(2013年 Kindle 田口こくまろと共著)などがある。
●公式サイト<http://www.lares.dti.ne.jp/~rio/
●公式ブログ<http://rioysd.hateblo.jp/

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