姫乃たまの耳の痛い話 第6回

「ずっと、時間もお金も、全部お前に使ったのに」――“唯一のファン”だった男が新規ファンを遠ざけた日のお話

 その男性ファンと二人三脚同然で活動しているうちに、徐々にですがファンも増えてきました。男もそれが嬉しいのか、応援にも一層熱が入り、彼女のためにオリジナルの掛け声まで作ってくれるほどでした。初めて彼女が自主制作のCDを物販で販売した日、男はその日の販売分を全て、買い占めました。嬉しいのと驚いたのと、少し申し訳ない気持ちもあったと、彼女はその時のことを語ります。

 しかし次のライブも、その次のライブも、男が一番に物販に来てCDを買い占めるとなると、事態は変わってきます。「ライブが盛り上がって新規のお客さんが来てくれそうな日」には、彼女の出番が終わるとその日の物販を全て予約されました。

 地下アイドルとしてのライブ活動も数年が経ち、男が作ったオリジナルの掛け声が新規のファンを遠ざけていることにも、だんだんと気づきはじめていました。相変わらず、CDは男の手にしか渡っていません。しかし人気者から一転、誰もいない路上で歌っていた日も、自分の出番だけ前のほうからお客さんがいなくなるライブハウスでも、たったひとり応援し続けてくれた大切なファンを無下にはできませんでした。

 ある日、物販を買い占める男の経済的な負担にならないよう、CDや写真を少なく物販用のキャリーケースに詰めながら、彼女は思いました「このままではいけない」と。

 それから何度も何度も話し合いを重ねました。曲中の掛け声をほかの人も参加できるオーソドックスなものに変えて欲しいこと、全てのライブに来れなくなってもいいから男のスケジュールが合わない日にもライブをしたいこと……。話せば話すほど、男は頑固になりましたが、彼女は諦めませんでした。

 あの雨の日、彼女のために大きな声で掛け声をかけた新規のファンを、男は最前列で蹴飛ばしました。裏口からこっそり帰ろうとする彼女を出待ちして、傘を差し出し、あの事件は起こったのです。

 あの後、男はうつむいて「ずっと、時間もお金も、全部お前に使ったのに」と言ったそうです。気がつけばあの路上ライブから6年もの年月が流れていました。

「付き合いたかったんだと思うんです。でもそれを口にしたらファンとアイドルの関係すら終わっちゃうから、彼は何も言わなかったんだと思います。あれから一度も会ってませんけど、いつもライブでは彼に届くといいなと思って歌ってます」

 幸せになってほしいですねと、彼女は言った。本当に、と。

●姫乃たま
1993年2月12日、下北沢生まれ。日本の地下アイドル。都内でのライブ活動を中心にライター、司会、DJとして活動しているミス器用貧乏。売れる兆しなし。
[地下アイドル姫乃たまの恥ずかしいブログ]http://himeeeno.hatenablog.com/
[姫乃たまのあしたまにゃーな]http://ameblo.jp/love-himeno/
[twitter]https://twitter.com/Himeeeno

ひとり占めしたかっただけなのに

ひとり占めしたかっただけなのに

こんな可愛く言ってもらえたらね……

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