【初心者歓迎! アメコミ道場 Vol.1】

アメコミの表現規制が『キック・アス』原作者を育んだ!? アメコミの自己批評性が生み出したマーク・ミラーという作家

『ウォッチメン』は、ヒーローが条例によって禁止された架空の冷戦下を舞台に、非合法にヒーローとして活動する男“ロールシャッハ”が、ある仲間の死をきっかけに、世界を揺るがす陰謀に迫る物語です。緻密な構成と練り込まれたストーリーライン、そしてふんだんに盛り込まれたアメリカ現代史をはじめとする歴史や文学、文化や社会問題への考察が高く評価され、数々の文学賞を受賞しました。コミックでありながら、タイム誌が2005年に発表した「1923年以降に英語で描かれた長編小説ベスト100」に選出されたことでも、その作品の質の高さがわかるでしょう。2009年にザック・スナイダー監督によって映画化もされています。

『バットマン:ダークナイト・リターンズ』は、活動を終えて10年が経過したものの、荒れるゴッサムシティの現状に憤ったブルース・ウェインが、バットマンとして復活する物語。厭世観に満ち、それでいて悪を許せないジレンマに陥っているバットマンの姿を、ハードボイルドなテイストと、当時としてはバイオレントな描写で表現しました。フランク・ミラーの白黒を強調した画風も、カラフルなアメコミとは異質なスタイリッシュでノワールな雰囲気を醸し出し、成長して雨込みから離れていたファンを引き戻すほどの大ヒット作となりました。ちなみに直接の映画化こそされていませんが、1989年のティム・バートン監督による『バットマン』をはじめ、クリストファー・ノーラン監督の「ダークナイト」シリーズなど、現在の“ダークでハードなバットマン像”を決定付けたのは、この作品といっても過言ではないと思います。

 こうしたアラン・ムーアの『ウォッチメン』とフランク・ミラーの『バットマン:ダークナイト・リターンズ』という二大傑作が土壌となり、アメコミは再び年長の読者層を開拓していきました。その中のひとりに『キック・アス』の原作者、マーク・ミラーもいたのです。

 1969年にスコットランドに生まれたマーク・ミラーは、アラン・ムーアやフランク・ミラーの影響を受け、高校時代からイギリスでコミック原作者としてのキャリアをスタートしました(特にフランク・ミラーには、『バットマン:イヤーワン』を読んだ後に空手道場に通い始めたというほどの入れ込みっぷりです)。その活躍に眼をつけたDCコミックにスカウトされ、94年から「スワンプシング」や「JLA」「スーパーマン」といった人気シリーズの原作を担当した後、2000年代には活動の拠点をマーベルコミックスに移行。ここでも「X-MEN」や「ウルヴァリン」「スパイダーマン」といった同社を代表するキャラクターのシリーズを執筆していきます。

 このようにDC、マーベルコミックスという二大アメコミ出版社の主要シリーズを手がけ、王道の原作者の道を歩んでいるように見えるマーク・ミラーですが、ミニシリーズでの参加作品を並べると、彼独自の創作性というべきものが浮かび上がってきます。

 映画『アベンジャーズ』に多大な影響を与えたとされる『アルティメッツ』は、キャプテン・アメリカやアイアンマンといった本作に出てくるメンバーこそお馴染みのアベンジャーズですが、ほぼ全員が協調性皆無で「こんなヤツらに世界を任せていいのだろうか?」と不安になるほどの性格破綻者の集まりでした。また2006年に発表された伝説の『シビル・ウォー』は、スーパーヒーローたちがキャプテン・アメリカ勢とアイアンマン勢に分かれて内乱を繰り広げるという、これまた異色のクロスオーバーです。こうした、王道の素材を異端な切り口で描く、といった作風には、やはり前述の先達、とくにアラン・ムーアの“アメコミというジャンル自体への批評性”の影響が色濃く見えるように思います。

 同時に2003年に発表したオリジナル作品『ウォンテッド』に見られる、悪党が跋扈する世界観には、フランク・ミラーの『シン・シティ』に通じるものが感じられます(ちなみにこの『ウォンテッド』は、アンジェリーナ・ジョリー主演の映画版に比べて、より“アメコミ度”が高い作品となっています)。

 このように、アラン・ムーアの“批評性”とフランク・ミラーの“過激さ”を持ったマーク・ミラーという作家が、数々のメジャーヒーローの原作を経たうえで“もしいま現実にヒーローがいるとしたら、それはどんな存在か?”と取り組んだのが本作『キック・アス』なのです。ものすごく長い前置きになりましたが、次回はそんな『キック・アス』の原作と映画版の比較を通して、マーク・ミラーの作家性に迫ります!
(文/雑賀洋平)

【次回は、原作『キック・アス』の映画との違いを見ていきます!】

アメコミの表現規制が『キック・アス』原作者を育んだ!? アメコミの自己批評性が生み出したマーク・ミラーという作家のページです。おたぽるは、人気連載マンガ&ラノベ海外マンガの最新ニュースをファンにいち早くお届けします。オタクに“なるほど”面白いおたぽる!

- -

人気記事ランキング

PICK UP ギャラリー
写真new
写真
写真
写真
写真
写真

ギャラリー一覧

XLサイズ……
XLサイズって想像できないだけど!!