イギリス最強のオタクスタッフたちが再結集!? 中年男たちが宇宙人と戦う珍映画 『ワールズ・エンド』の“大胆な結末”

1404_worldsend2.jpg(C)Focus Features

 かくして地元に戻ってきた一行は、12軒のパブを片っ端から回り始めるのだが、時の流れは残酷なもので、かつて通い詰めたはずのパブの雰囲気は、一様にどこかよそよそしい。「だからやめようって言ったのに」「もう昔とは違うんだよ」――そんなお決まりの“仲間割れ”が生じる中、ゲイリーは地元の若者たちと些細なトラブルを起こしてしまう。そして、もみ合いになった彼のパンチが、若者の顔面にヒットしたところ……なんと若者の頭部がひっこ抜けてしまうのだ。しかも血ではなく、何やら青い液体を周囲にまき散らしながら。そう、彼らは“人間”ではなかった! この街は、何者かによって乗っ取られているのだ!

 しかし、もはやすっかり酩酊している彼らにとっては、そんな異常事態よりも、むしろ12軒のパブを回ることのほうが重要なのである。否、むしろ12軒のパブを回ることによって、何かが変わるのではないかという実に都合の良い解釈のもと、迫り来る“ブランク(空っぽ)”たちの攻撃をかいくぐりながら、最終目的地である12軒目のパブ、“ワールズ・エンド”を目指すゲイリーたち。だが、“ワールズ・エンド”には、文字通り“世界の終わり”が待っていた。街の人々を“ブランク”へとすり替えていった謎の侵略者たち。自らを“ネットワーク”と名乗る彼らが、一行を待ち構えていたのだ。果たして、ゲイリーたちに勝ち目はあるのか? でも、一体どうやって?

 中年たちの同窓会ともいうべき、痛しかゆしの展開から一転、映画『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』(56年)さながらのSF劇へと突入する本作。しかも、その酔いどれアクションっぷりは、どこかジャッキー・チェンの『ドランクモンキー 酔拳』(78年)を彷彿とさせ……といった具合に、『ホット・ファズ』同様、今回もまた、自分たちの“好きなもの”だけを盛り込みながら、監督エドガー・ライトと仲間たちは、実に素っ頓狂な物語を展開してゆくのだった。もちろん、これまでの彼らの作品同様、劇中で流される音楽にも、万全のこだわりが貫かれている。

 冒頭に挙げた「自由が欲しい」の一節が、プライマル・スクリームの楽曲「ローデッド」からの引用(もともとは、ロジャー・コーマンの映画『ワイルド・エンジェル』(66年)でピーター・フォンダが言うセリフ)だったことをはじめ、ブラー、ストーン・ローゼズ、ティーンエイジ・ファンクラブ、スウェードなどの往年のヒット曲……というよりも、登場人物たち、そしてエドガー・ライトたちが青春時代を過ごした90年前後の“ブリットポップ”隆盛期の楽曲が、劇中で流れまくるのだ(ちなみに、主人公ゲイリーが着用しているTシャツには、同時期に人気だったゴス・ロックバンド「シスターズ・オブ・マーシー」の名前が堂々とプリントされている)。

 といった具合に、いずれも登場人物たちと同年代――しかも、ブリットポップをリアルタイムで愛聴していたような人たちにとっては、非常に懐かしい映画や楽曲ばかり……であるからこそ、もはや中年となった“元・若者たち”の悲哀や痛さ、あるいは“可笑しみ”といったものが、その随所に感じられるようにも思える本作。時の流れって、やっぱり残酷なものだから。しかし、エドガー・ライトと仲間たちは、本作の最後に思いもよらぬ大胆な結末を用意しているのだった。

 パーティーの終わりに訪れる“切なさ”や、その後は“それぞれの現実と向き合おう”といったお決まりのメッセージではなく、むしろそんな“現実そのものをぶっ壊せ!”とでも言うような、とてもアナーキーなエンディング。“世界の終わり”とは、すなわち“新しい世界の始まり”を意味しているのだ! その荒唐無稽な結末に、思わずニヤリとするどころか、なぜだか無性に勇気づけられてしまうような映画。そう、オタク的な偏愛を武器に、同胞たちと“世界”そのものをひっくり返してしまうような痛快作――それがこの『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』なのだ。
(文/麦倉正樹)

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■『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!
渋谷シネクイントほか全国ロードショー公開中
監督:エドガー・ライト
出演:サイモン・ペッグ、ニック・フロスト、パディ・コンシダインほか
配給:シンカ、パルコ 2013年、イギリス製作

公式サイト
http://www.worldsend-movie.jp/

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