『ブラッドハーレーの馬車』読後に「はーっ…」とため息しかでない春っぽい“門出”をテーマにした激鬱漫画

2014.04.22

ブラッドハーレーの馬車/沙村広明

 エロゲー/美少女ゲームでもそうだが、春を舞台にした物語は非常に多い。『To Heart』や『CLANNAD』などたくさん挙げることができる。だいたい春を舞台にした物語の根幹には“門出”がテーマとして存在する。新しい生活が始まるタイミングなのだからそれもそうだろう。

 「新しい生活が始まる=夢と希望がつまっている」という図式が成り立ちがちだが、それをものの見事に裏切る漫画があるので紹介しよう。

 沙村広明氏の『ブラッドハーレーの馬車』だ。沙村広明氏は『無限の住人』でデビューし、同作は独特の画風とハードボイルド時代劇のような作風で人気を博し、TVアニメ化までしている。

 さて、『ブラッドハーレーの馬車』だが、この漫画の舞台は詳しく提示はされないが、近代ヨーロッパのどこかだ。簡単なあらすじはこうだ。

 近代ヨーロッパのとある地では、たくさんの孤児院があった。そこで生活する少女たちは資産家・ブラッドハーレー家の養女になることが夢だった。ブラッドハーレー家の養女になればブラッドハーレー聖公女歌劇団で華々しく活躍できるからだ。毎年孤児院から少女が連れて行かれる。彼女たちは夢のまた夢であった舞台に立てると信じて疑わなかった。しかし、彼女たちが連れて行かれた先は、華々しい舞台とは無縁な暗い堀の中だった。そこで恐ろしく壮絶な悪夢が始まる――。

 あらすじにある通り、この漫画は悪夢の連続だ。かつて設定舞台となった国で「ヘンズレーの暴動」と呼ばれる囚人・看守合わせて37人が死亡した刑務所での集団脱獄・暴動事件が発生した。そこで国は、こういった事件を恒久的に防止する為のプログラムを策定・実施し始める。それが。「パスカの羊」と呼ばれる一種の祭りだ。その祭りは服役者の性的欲求・破壊欲求を解消させるため全国の孤児院より女子を買い取り、年一回、長期・無期服役者に対して与え、殺す以外はなんでもしていい(要は合法的にレイプして構わない)狂気のイベントだった。

 漫画は一話完結の全八話で、そのどれもが高いクオリティを持ってバッドエンドを迎える。少女たちの気持ちが迎える悲惨な結末に胸が痛くなって、ページを進めるのが本当に辛くなる。エンターテイメントというよりもどちらかというと、文学に近い漫画だ。悲惨の中にも希望を感じさせたり、周囲の人間が見せる人間らしさ、そのプログラムに対する矛盾を感じていてもどうしようもできない憤りなどが見事に表現されている。

 暴行シーンはあるものの、まったくエロさはないのでエログロ作品とは全く異なる。ストーリー重視、かつ純文学が好きで、極めて悲惨なバッドエンドに耐性がある人におすすめだ。エロゲーマーでバッドエンド好きな方も読むことができるだろう。

 「ヘンズレーの暴動」とか「パスカの羊」とか、劇中に出てくるキーワードの設定が巧みで、実際の史実にもとづいたものかと勘違いしてしまいそうだが、全てフィクションだ。新社会人や進学した学生なんかは、仕事や勉強の合間に『ブラッドハーレーの馬車』を読んで、かつてこんな少女たちがいた……かもしれないということを想像して、自分はハッピーエンドを迎えるために新しい道を頑張ってみてはいかがだろうか。ただし、世界に入り込んでしまうと何もできなくなるかもしれないのでご注意を。
(文=Leoneko)

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