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“ラノベ嫌い”のためのライトノベル入門 第1回

25歳のダメ男が美少女と怠惰な日々を過ごす…俊英・森田季節が「完全に趣味で書いた小説」

2014.04.08

 その一方で本作が、どこで発表するあてがあるわけでもなく「完全に作者が趣味で書いた小説」であることを「あとがき」で知ったときから、むきだしの森田季節作品が堪能できるかもという期待を抱きつつ、本書を読み始めた。(筆者は「あとがき」を最初に読む派)

――この俺、冬川朱雀と相棒の少女・小手毬はこの世に必要とされていない異能力者だ――「異能力制限法」により、異能力の無断使用は厳禁され、異能力者が管理されている現代。異能力が使えるのはTVやエンターテイメントの中でショーアップされた戦いを演じる時だけだ。「暗殺異能」に特化した俺と小手毬じゃ、地味かつ邪悪でTV出演など不可能、人気も出ないし仕事もこない!実力だけなら無敵のはずなのに、戦う機会が、異能力を使う機会がない!「現実」の異能力者たちが交錯する、真の最強異能力者決定アクション!(カバー表4 内容紹介より)


 舞台は、法律によって異能力の使用が規制された世界。異能力者たちの活躍の場は、警備やボディガード、もしくは雑誌やテレビ、ショーといったエンターテイメント業界などに限られ、いつしか炎や氷、風といった見栄えのいい異能力の持ち主や、かわいい女子高校生の異能力者が人気を博するようになっていた。主人公の冬川朱雀は、異能力を使う暗殺者“影殺師”の末裔。だが彼の異能力は、余命いくばくもない者を“煌霊”として使役させる、いわゆるネクロマンサー。おまけに暗殺技術の高さゆえに、一瞬に勝負がついてしまい、倫理的にもショー的な見栄えにも問題があり、所属する異能力者事務所からろくな仕事も回してもらえない。そのため相棒の美少女・小手毬から小言を浴びせられながら、怠惰で不遇な毎日を過ごしていた。

 異能力こそ存在するものの、力を発揮する真剣勝負=バトルの場が存在しないという何とも皮肉な世界観の本作だが、前半の見どころはなんといっても、主人公である朱雀のダメ人間っぷりだろう。実際に戦えば不戦無敵=「どんな異能力者と戦っても、負けるつもりはない」と自負しながらも、仕事がないのを「時代が悪い」と責任転嫁。それでいて同期の徒花舞花や後輩の霧原みぞれら売れっ子異能力者たちに励まされても、家事を小手毬に押し付け、八王子のアパートでSNSやゲームにふける25歳。はっきり言ってこの年齢設定は、本来、中高生をメインターゲットにしているライトノベルの主人公には向いていないキャラクターだろう。

 ところが社会人の我が身にすれば、思い当たる節は大いにある。せっかくやる気を出したのに、来た仕事がゆるキャラの着ぐるみだったり、テレビの仕事に呼ばれて駆けつけてみれば、メインは相棒の小手毬で自分は蚊帳の外だったという疎外感。飲み会の代金をどう捻出するかで悩んだり、出世した後輩に羨みと妬みの入り混じったアドバイスをして自分の器の狭さに傷つく小物っぷり。

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