キャラ立ちが迫られるアイドル界で、スマイレージ・和田彩花の「絵画愛」は通用するか?

2014.04.05

 アイドルグループが続々と登場し、音楽シーンを席巻する現在。グループ同士の熾烈な争いだけではなく、メンバーにとっては“グループ内で埋もれないようにキャラ立ちする術”が必要とされている。とはいえ、ぶりっこキャラやおバカキャラはもう通用しない。「フレッシュレモンになりたい」という謎の夢をもつアイドルとしてお茶の間認知度が急激にアップしたAKB/NMB48の市川美織のように、「人とは違う個性」でアピールするアイドルが急増しているのだ。

 そんな中で今、注目されているのが、スマイレージのリーダーである“あやちょ”こと和田彩花。和田の個性は、“アートを語るアイドル”というもの。地味なキャラかもしれないが、先日発売した乙女の絵画案内 「かわいい」を見つけると名画がもっとわかる(PHP新書)はネット上でも話題となり、作家の村上龍も帯に「女性アイドルによる、女性アイコンを巡る、魅惑的な旅の書」と推薦文を寄せているほど。

 和田は在学中の大学でも美術史を専攻しているそうで、たとえば「私が絵画に興味をもつきっかけになった人」だという印象派の画家・マネも、彼女が魅了されたというのは“黒”の描き方。「もし自分で絵を描くとしたら……きっと黒は、たんなる塗りつぶしになってしまうと思います。でもマネの黒は、観ている人にはっきり見えてくる。真っ黒なのにそこに絵が表現されていて、いろいろなものが見えてくるんです」と解説している。よほどマネが好きなのか、ベラスケスの絵を紹介した際には「マネが敬意を払ったというだけでもドキドキする存在です」といい、妙なオタクぶりが露わになっている。

 また、少女たちが集まったバレエの練習場の一場面を描いたドガの<ダンス教室>を紹介するページでは、「教室全体に厳しい空気は漂っていません。先生の前でこんなにダラダラしていていいのかなと、こちらが心配になっちゃうくらいです」と素直な感想を述べた上で、あえてそんな風景をドガが描いたのは「(ドガが)毎日のように稽古場に通っていたからこそ」ではないかと推測。「意志によって統制された美しさと、ふとしたときに出てくるゆるさや自然の動作がおもしろくて、ドガは踊り子たちにこだわったのかもしれませんね」と分析している。そして、絵のなかにひっそりと描かれた子犬に着目し、「ふだん男性が入れないような場所にドガがいて、少女たちを観察している。少女たちのほうも、それをとくに気にする様子もない。まるで、この子犬がドガを象徴しているような気がしてきます」と解釈するのだ。絵を見ても「あ、犬がいるな」としか感じない人も多いかと思うが、和田の文章を読めば、絵画の見方や楽しみ方が伝わってくるのではないだろうか。

 さらに、菱川師宣の<見返り美人図>を取り上げた際には、浮世絵に描かれた女性の目の細さと、マンガやアニメに登場する女子の目の大きさを対比。「実際には、どちらも現実世界ではありえない表現になっているのですが、描く人と観る人のあいだに、こういうふうに描くと美人画になるという“お約束”ができていると、それがかわいく見えちゃうんです」「日本人はむかしから対象をデフォルメして描いたり、それを理解することに長けていたんですね」と、クールジャパンにも繋がる日本美術と文化の独自性を説いている。

 もちろん、裸体画に言及して「絵だとしても、生身の女性の裸を見ているような裸体画は、やっぱり私には恥ずかしい……」とカマトト的振る舞いを見せる場面があったりと、アイドルらしさもきちんと包含。指原莉乃や菊地亜美のぶっちゃけキャラに辟易しているおじさんも、このキャラならばウケも良さそうだ。──果たして、和田が“アート好きの知的アイドル”としてブレイクを果たせるか。今後に要注目だ。
(文/田口いなす)

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