宮崎駿も惚れた「萌え」の原点を創った男――孫が語る藪下泰司の伝説

「私が高校生の時に、文化祭で8ミリ映画を作った。映画といって興味があったのか、祖父は祖母と観に来たんですが、無言で失笑して帰っていきました。高校生が作ったものなんだから、程度なんてわかるだろうし、仮にも孫なんだから何か言えよっていうね(笑)。でも、今、思えば、これこそ祖父のプロ意識だったと思います」

 孫の作品であっても容赦のないプロ意識。それと同時に東映に身を置いても、そこで安穏とはしない、インディーズ気質が藪下にはあった。アニメーション史に名を刻む藪下だが、彼の業績はそれだけではない。東京美術学校(現・東京藝術大学)写真科を卒業した後、最初に入ったのは松竹撮影所の現像部。その後、文部省(当時)では映画制作設備の創設や記録映画の制作に携わっている。1972年の『日本漫画映画発達史・アニメ新画帖』を最後に演出から離れた後も、晩年まで後進の指導や文献の執筆を続けている。業績を見れば東映で役付きになり、安穏とした後半生をおくることもできただろう。だが、藪下はそれをせず、新たな自分のなすべき仕事に邁進し続けたのである。

 孫の高橋監督は、間違いなくこの藪下のDNAを受け継いでいる。映画評は『日刊サイゾー』のほうを見てもらうとして、最新作の『ゼウスの法廷』は、法廷のセットこそ東映撮影所で組んだものの、自社による配給。そして、彼の作品づくりは日本という限られた枠を超越しているからだ。

 聞くほどに興味が深まる藪下という人物。ただ、高橋監督は「資料の多くは散逸してしまっています。私も、ウォルト・ディズニーが祖父に宛てた直筆の年賀状や、ディズニーにもらったというネクタイをもらったはずなんだけど、どこにいったのか……」と語る。ただ、藪下の使っていた机だけは「スタジオジブリに差し上げた」という。

「私が祖父からもらい受けて使っていたものでしたが、私が外国に行ったりして荷物になったので95、96年頃に、ジブリに進呈しました。使っていたから、カッターナイフの傷とかもついているんですが、挨拶に出てきてくれた宮崎さんが傷を見つけて“こういうのは、そのままにしといたほうがいいんだよ”と言ったのを覚えています」

 取材の後、スタジオジブリにこの机の行方を尋ねたところ、「ジブリ美術館の事務所で、大切に使わせていただいてます」という。展示や収蔵ではなく現役で使っているところに、藪下という人物への畏敬の念を感じる。本物の才能は、さまざまなものに形を変えながら、確実に次の世代へと受け継がれていくのだ。
(取材・文/昼間 たかし)

■『ゼウスの法廷』
監督・脚本/高橋玄 出演/小島聖、野村宏伸、塩谷瞬・椙本滋、川本淳市、宮本大誠、吉野紗香、速水今日子、横内正、黒部進、風祭ゆき、出光元 
配給/GRAND KAFE PICTURES 3月8日(土)よりシネマート六本木・シネマスコーレ(名古屋)ほか全国順次ロードショー 
※初日舞台挨拶あり
公式サイト:<http://www.movie-zeus.com

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