人気美少女ゲームブランド“Innocent Grey”杉菜水姫インタビュー後編

Innocent Greyの尖ったブランドコンセプトについて杉菜水姫に聞いてみた――「萌えは不要」「絶対に死体にモザイクはかけない」

 前編(参照記事)では、Innocent Greyの新作である『FLOWERS』中心に語ってもらった。全年齢版であるということや、百合というやや特殊なジャンルを扱うということにおいてもブランドの個性を感じさせてくれる内容だった。

 しかし、Innocent Greyはゲームの世界観だけなく、販売方法なども一般的な美少女ゲームブランドと戦略が異なる。美少女ゲームないしエロゲーはだいたい店舗での予約件数で勝敗が決まると言われている。なぜなら発売日から週末にかけての初動3日間でほとんどの数字が動くからだ(編注:エロゲーの多くは金曜日に発売日を設定する)。そのためにブランド側は1本でも多く予約を入れてもらう必要があり、予約特典を大々的に付けるのが主流だ。この予約特典を店舗ごとに変えたりするなど、ブランド側でも様々な戦略を立てるのだ。しかし、この特典をInnocent Greyでは付けない。

 それはどうしてなのか? 後編ではInnocent Greyというブランドそのものについてスギナミキ氏に語ってもらった。

――もともと横溝正史のようなミステリィの世界が好きだったというお話でしたが、ブランドのコンセプトとして、美少女ゲームの絶対的な存在と言ってもいい“萌え”は必要ないと公言していますよね。一度も作ろうと思ったことはないんですか?

スギ:ありません(即答)

――ミステリィものとして『カルタグラ』で美少女ゲーム界に参入された際、周囲の反応はどうだったんですか?

スギ:当時はかなり厳しい反応だったと思います。極端に言えば、このご時世にミステリィか、と鼻で笑われるような状況でした。正直、私たちもユーザーに相手にされないかもしれないと危惧しながら制作していたんです。でも結果的にはグラフィックと猟奇シーンの描写が強烈だったこともあって、いい評価をしていただけました。

――ここ数年、美少女ゲーム業界は市場が縮小していると言われていますが、そのことを実感するようなことはありますか?

スギ:確かにそう言われていますが、Innocent Greyの場合、売上で考えるといまも昔も大差ありません。どれが爆発的に売れることも、どれが大失敗することもなく常に一定なんです。この売れ方は他社からすると珍しいことなのかもしれませんが、恐らく私たちの作品が流行に乗ることなく、狙ったユーザー層に期待通りの作品を届けることができているからじゃないでしょうか。時代が変わっても、私たちの作りたい作品を生み出し続ければ大丈夫だと信じています。

 これは個人的な意見ですが業界の縮小以上に表現の規制が厳しくなっていくほうがブランド的には致命的だと思っています。ここしばらくは平行線ですが、実際カルタグラ以降一気に規制が厳しくなって同レベルの描写はできなくなりましたので。いつか殺人事件自体を扱うのがNGにならないか不安です(笑)

――違法ダウンロード対策などはされているんです?

スギ:実は最近の作品にはコピーガードの類はつけていません。前はコピーガードやらネット認証やらを付けていたんですが、その対策を施したところで違法する人のモラルは何も変わらなかったんです。その一方で売上にも大きな変化ありませんでした。プロテクトをかける費用も決して安くはないので費用対効果を考えると難しいところですが。今のところ決定的な対策はしてませんが、いずれ何らかの形でメーカーとして動かなければいけないと思っています。

 また、セキュリティの代わりというわけでもないのですが、Innocent Greyではパッケージデザインに力を入れています。パッケージは現物でしか手に入りませんので、パッケージも含めて欲しいとユーザーに思っていただくように作るのが違法ユーザーを増やさない対策と言えるかもしれません。もちろん正規に購入していただいたユーザーと、違法ユーザーを同列に語ることはできないので、違法ユーザーを見つけたり、正規ユーザーから通報があったものに対しては厳正に対処しています。

――Innocent Greyはパッケージが他のメーカーと全く異なるサイズだったり、いまでは当たり前の豪華な店舗特典を付けなかったり、独自の販売戦略をしていますよね。これはどうしてなのですか?

スギ:確かにあまりグッズを作らないという印象は客観的に見てもあると思います。どうしてもゲーム制作のプライオリティが高いので、グッズ製作する時間がないというのもあります。一つの作品でプロデューサー、ディレクター、企画、ゲームデザイン、イラストの全てを兼任しなければいけない今の状態ではやはり難しいです。イラストだけに専念できる状況であればもっとグッズも作れると思いますが、自分はゲームを作る方が何倍も好きなので(笑)

 それからパッケージに関しては自分が凝ったパッケージや変わったパッケージが好きというのもあって、それを製作に生かしています。あとは小さい方がユーザーさんも保管しやすいですし、在庫の管理もしやすいので結構メリットの方が大きいと思います。売り場では目立ちにくいという最大のデメリットはありますが(笑)

――グッズ販売に積極的ではないからコミケなどにも参加しないんですか?

スギ:コミケに参加する意味がないんですよ。最後に参加したのは『Cure Girl』(編注:Innocent Greyの姉妹ブランドであるNoesisからリリースされたいわゆるエロゲー)の時だったのですが、ブースの場所が会場の目立たないすみっこだったんです。コミケなんて言ったら大勢の人がひしめき合うようなイメージを持たれると思いますが、私たちの前はスッカスカの状態でした。

 世間の流れもあるんだとは思いますが、18禁を扱う美少女ゲームブランドの多くがコミケではあまりいい位置にブースを配置してもらえていないと思います。これはプロモーションの場として機能せず、単純に物を売るためだけのイベントなら、参加しても時間を取られて開発が遅れるだけになってしまうんです。そもそもコミケは『同人誌即売会』ですからプロモーション目的で参加するこちらが不純ということなのでしょうね。

――確かにコミケ自体がプロモーションの場ではなく、物販するイベントでしかないという声は他のブランドの方からも声があがっていました。でもグッズ販売に積極的ではないのはまだいいとして、店舗特典を廃止したのはやりすぎだったんじゃないですか? 実際売上が落ちるなどはありましたか?

DSC_0245_mini.jpgInnocent Greyがこれまでリリースしてきたヒット作品をずらっと並べてもらった。中にはファンならヨダレもののお宝アイテムが!

スギ:『殻ノ少女』の販売から店舗特典を廃止したのですが、結果、売上が落ちることはありませんでした。店舗特典を廃止するなら廃止するで、クオリティーを上げ、作品自体に特典以上の価値を付けなければいけないというプレッシャーがいい結果につながったのだと思います。その当時は会社を潰すくらいの覚悟で店舗特典廃止に踏み切りましたからね。でもそのかいもあって中古市場に作品が流れることがなくなりました。いまでも2010年発売の『パラノイア』(編注:Innocent Greyの過去作4本セット)と2013年2月発売の『虚ノ少女』は新規で売れ続けているんですよ。

 『殻ノ少女』以降も、Innocent Greyの作品が大量に中古市場に並ぶようなことはありません。中古市場にないとなると、新品の値段が下がることもありません。美少女ゲームはよく発売日の金曜から日曜にかけての3日間が勝負で、それが過ぎるとほとんど在庫が動かないと言いますよね。実際、多くのメーカーがそうだと思います。でも、Innocent Greyの作品に関してはそうではなく、そのピークがその3日間であっても継続的に動きます。これは大きな特徴だと思います。

――なるほど。それは安易に“萌え”を売らなかったからなんでしょうね。今後のブランドとしての目標はありますか?

スギ:Innocent Greyは「ミステリィ」と「百合」の二本柱でこれまで通りの作品を作り続けることですね。まず百合で『FLOWERS』を4月18日にリリース。単純な百合ではなく、女の子の心のつながりを描いたこれまでにない百合作品かつ、Innocent Greyらしいミステリィもあるので、ぜひ楽しみにしてください。この『FLOWERS』のシリーズは計4本出す予定です。サウンドトラックの『PRINTEMPS』も同時発売されるのでよろしくお願いします。

 ミステリィの方は『殻ノ少女』の完結編である『殻ノ少女3』(仮)を並行して作っているので、こちらを完成させることですね。それとブランド創立10周年を記念したライヴイベントを久々に企画しています。詳細は何も決まっていないんですけどね。

――百合で4本も出すんですか? そっちばかり作って『殻ノ少女3』(仮)のリリースが遅くなったりするんじゃないですか?

スギ:(苦笑)『殻ノ少女』から続編である『虚ノ少女』をリリースするのに4年くらいかかっているのですが、それよりは短いスパンでリリースしますよ。たまに『FLOWERS』にかかりきりになってばかりで、『殻ノ少女』シリーズの開発が後回しになっているんじゃないか、という声をもらうんですが、きちんと進めているので安心してください。ただ、『殻ノ少女』シリーズはプロットや設定などをかなり作り込む必要があるので、どうしても時間がかかってしまうんです。

――全年齢作品を出すとはいえ、これからもInnocent Greyは何も変わらないということでいいですか?

スギ:変わりません。これからも死体には絶対にモザイクをかけませんよ(笑)
(構成/Leoneko)

⇒前編「Innocent Greyが百合?でも誰か死ぬんでしょ?死なないの? 新作『FLOWERS』について杉菜水姫に聞いてみた」を読む

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