赤っ恥をかくのは誰か…『アンネの日記』をめぐり、新たな“図書館戦争”の火ぶたが切って落とされる?

 新たな言論・表現の自由、さらには、図書館の自由をめぐる問題として深刻化するのか? 東京都内の公立図書館で相次いでいる『アンネの日記』や関連書籍のページが破られている事件。まだ、犯人の逮捕には至っていないにも関わらず、犯人像や背景をめぐり、さまざまな意見が飛び交っている。

 その意見の多くは、自身の政治的な立ち位置に依拠したものだ。衆議院議員の中山成彬氏(日本維新の会所属)は自身のTwitterで「各地の図書館でアンネの日記が破られているというニュースに、瞬間日本人の感性ではない、日本人の仕業ではないと思った」と発言。賛同と非難とを浴びている。また、民主党所属の衆議院議員・細野豪志氏(民主党所属)はTwitterで「『レイシズムとは戦う。表現の自由を守る。多様性を大切にする』安倍総理は、国際社会に対してメッセージを発するべきです。」と発言。これまた、賛同と非難の嵐になっている。

 こうした政治家の発言を中心に、妄想を膨らませる人は多く、ネットでは「反日工作の一環」「被害を受けている図書館がある地域は、どこもサヨクが強い地域」といった意見を表明する人まで出てきているのだ。

「内心の自由」をとがめる権利は誰にもないが、本サイトでの既報の通り(参照)、この事件にレイシズムの蔓延だとか、反日勢力の工作といった意図は、あり得ないだろう。実は、筆者と同じ取材源にあたっている大手メディアもあるようだが、やはり大手メディアでは「犯人は“刑事責任能力のない人”ですよ云々」と、図書館関係者が言っているとは書けないらしい。それに加えて「誰が何の目的で行っているかは、分からない」という日本図書館協会関係者の発言が報じられていることも、妄想を膨らませる原因となっている。

 さまざまなメディアの報道では、蔵書の損壊の数量や時期についても「被害の報告が1月に入って相次いだ」「二十日わかった」など多種多様な書き方をして、急増したかのように報じている。日本図書館協会に近い消息筋は、これを一蹴する。

「(本サイトの既報の通り)『アンネの日記』などホロコースト関連書籍が破かれる事例は、今までもありました。昨年5月以降、一部の図書館関係者の間では、執拗に破いている人物がいるという話は伝わっていました。当然、これまでの経験から、どういった人がやっているかは、想定できるものです。だからこそ、その事実が、政治的な意図を持った人に利用されることも容易に想定できたので、あまり騒ぎにしていなかったのです」

 25日、日本図書館協会では声明を発表しているが、やはり本音は言えないのか、「非常に残念に思っている」と述べるに止まっている。

 事件は警視庁が捜査本部を設置する一大事になっているが、仮に犯人が捕まれば政治的な意図を持って「組織的な犯行か」「安倍政権が」「レイシズムが」などと、今回の事件について言及した識者やジャーナリストは赤っ恥をかくことになりそうだ。

 しかし、そうした赤っ恥をかきそうな人々が「社会の空気が、その人物を動かした」という無理矢理な論理を組み立てて、さらに騒ぎ立てるという、悲惨な事態も想定できる。

 そして、この問題は、いまや図書館の自由をめぐる問題に発展する可能性を持ち始めた。まだ想像の域を出ないが、こうした事件を防ぐために「図書館に監視カメラを設置・増設」という意見は出てくるだろう。さらに、諸外国からの非難をネタに、警察が犯人の手がかりを求めて貸し出し履歴を図書館に要求することも起こりかねない(さすがに、貸し出し履歴の要求はかなり可能性は低いが)。

 そういう事態が生じた時に、“レイシズム”と“図書館の自由”のどちらを優先することになるのだろうか。

 現実は、善悪がハッキリしていた小説『図書館戦争』みたいにラクではない。
(取材・文/昼間 たかし)

アンネの日記 (文春文庫)

アンネの日記 (文春文庫)

「わたしは思うのですが、戦争の責任は、偉い人たちや政治家、資本家だけにあるのではありません。そうですとも、責任は、名もない一般の人たちにもあるのです。そうでなかったら、世界中の人々はとうに立ち上がって、革命を起こしていたでしょうから。」

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