業界への幻想をブチ壊す!? “おカネ事情”を赤裸々に明かしたマンガ3選

■旨い=繁盛店ではない!
ラーメン発見伝(原作:久部緑郎、作画:河合単/小学館)

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 グルメ全般なら『美味しんぼ』、海産物なら『築地魚河岸三代目』、蕎麦なら『そばもん』。小学館の「ビッグコミック系」が得意とする“どんなトラブルも食い物で解決するマンガ”、そのラーメン特化版である。昼は商社マンとして会社のラーメン事業を盛り立て、夜はこっそりラーメン屋台を引き、脱サラ開業のため修行に励む青年・藤本の日々を描く。

 ストーリーの流れやキャラクター配置は『美味しんぼ』とほぼコンパチ。グータラ社員だが異常に味覚が鋭く調理スキルも高い主人公(山岡士郎に相当)、そのダメっぷりを支えるヒロイン(栗田さんに相当)、あらゆる点で主人公の上をいく最強ライバル(海原雄山に相当)がレギュラー。準レギュラーとしてトラブルメーカー(富井副部長・大原社主に相当)や、主人公のよき理解者である料理人(岡星さんに相当)まで抜かりなく配置している。

 しかし本作がなによりユニークなのは、ただ美味しいラーメンを作ることがゴールではない点。コスト管理、店の立地、営業時間、常連客の功罪まで徹底的に踏み込んで“利益が出るビジネス”として成り立つことをゴールとするエピソードが多い。

 こうした作品スタンスを象徴するのが、海原雄山ポジションの凄腕ラーメン店主・芹沢。彼は過去にコスト度外視でひたすら旨いラーメンを売り出したものの、客がつかず廃業寸前に。やけくそで油ギトギトの濃口ラーメンを出したところ、これが大受けしてしまった。“ほとんどの客はうわべの味で騙される”“客はラーメンを食うのではなく、ネットやTVで知った情報を食っているのだ” その真理に気づいた芹沢は反則スレスレの売り方を極め、一躍ラーメン業界のトップに君臨するようになる。このへんは普段からネットの評判を気にしながらラーメン屋めぐりをしている人間にとって耳の痛い話だ。

『銭』『グラゼニ』ほど露骨な表現は少ないが、この芹沢という名キャラクターが巨大な壁となり“客のため、自分のためにひたすら旨いラーメンを作りたい”と願う藤本を何度も叩きのめす。ラーメンが旨いのは当たり前。そのうえでいかにソツなく立ち回って利益を出すか。味を改良しなくても、店構えを今風に変えて値上げしただけで繁盛してしまうこともある……そんなラーメン業界の現実を遠慮なく描き、理想論と真っ向からせめぎ合わせる作者の鋭い視点が見どころ。

 スピンオフの『らーめん才遊記』とあわせ、飲食業界のシビアな事情を知りたいなら必読な、ちょっと辛口のテキストである。これを読めば安易に“儲かりそうだから脱サラして飲食店でもやってみるか”などと間違っても言えなくなるはずだ。

(文/浜田六郎)

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