立川談志に古今亭志ん朝…人気マンガ『昭和元禄落語心中』で元ネタとなった落語家は誰だ?

立川談志に古今亭志ん朝…人気マンガ『昭和元禄落語心中』で元ネタとなった落語家は誰だ?の画像1昭和元禄落語心中(講談社/雲田はるこ)第5巻。

「ITAN」(講談社)で連載中の落語マンガ『昭和元禄落語心中』の第5巻が、本日2月7日に発売となる。「このマンガがすごい!」(宝島社)の2012年オンナ編で第2位に選出された本作。作者の雲田はるこは、もともとBLを手掛けていたとあって、作品の中からもやおい臭がぷんぷん漂っているマンガである。が、本作の人気の要因はBL要素ではなく、落語好きを唸らせる高座の描写や、きっちりと描かれる師匠と弟子の関係性の描写にある。

 落語だけに限ったことではないが、専門知識を必要とする作品の場合、監修が付く場合がほとんどだが、本作にはそのクレジットがされていない。作者本人が落語好きで、自らの知識や経験、資料などから見事に落語の世界を再現しているのである。

 本作の歴代の名人たちを彷彿とさせる高座の描写のすばらしさから、連載当初から「登場人物たちのモデルになっているのは誰か?」という考察が、いろいろなところで行われてきた。

 まず、与太郎の師匠・有楽亭八雲は、昭和の大名人のひとり、六代目三遊亭円生という説。正統派の落語を追求し、艶やかな噺を得意としていた円生。端正な顔立ちと細身の体で、遊女やおかみさんといった女性を見事に演じ、“艶生”とまで呼ばれたその姿は、作中の八雲とぴたりと重なる。落語ファンの多くは納得できるだろうと思う。

 そして、八雲の盟友・助六であるが、これがやや難しい。破天荒、天衣無縫、ぞろっぺい【編注:“だらしない”の意】などなど、型破りな噺家として知られる五代目古今亭志ん生という意見が多い。酔っ払って高座で寝てしまった、関東大震災発生時に今後酒が飲めなくなると思って酒屋に飛んで行った、女房の着物を全部質入れして酒を飲んだ、借金取りから逃げるために十数回も改名したといった破天荒なエピソードもたっぷりの大名人だ。また、戦時中は円生と慰問団として満州に渡り、そこで苦労を共にしたというエピソードもあり、本作の八雲と助六の関係にも似ている。

 しかし、助六は幼少のころから鍛えられた天才肌だが、志ん生は生粋の苦労人。売れない時代と幾度の改名を繰り返し、ようやく売れっ子となったのは55歳を過ぎてから。また、破天荒なエピソードばかりが取り上げられるが、芸事には熱心でいつも落語本を手放さず、暇さえあればずっと本を読みふけるほどの勉強家だという一面もあり、その芸風は天性のものではなく作り上げられたものだという説が今では有力だ。

 こうして見ると、助六の場合は志ん生よりも、家元でお馴染みの五代目(自称)立川談志が最も近いのではないかと思われる。二つ目【編注:落語の身分を指す言葉で、前座と真打の間に位置する】のときに師匠である先代八雲とケンカ別れしてしまう点は、敬愛する師匠・柳家小さんとケンカ別れしてしまった談志のエピソードとも被る。また、天才的なセンスで落語を自由自在に壊し、再構築して高座にかける助六のスタイルは、一見破天荒に見えながら計算されつくした芸の志ん生よりも、談志のほうがより近いだろう。

 そして、本作の主人公の与太郎であるが、作中で本名がどうやら強次らしいということが判明している。この強次は、志ん生の息子であり、天才と謳われた二代目(三代目ともされる)古今亭志ん朝の本名(美濃部強次)から取られたものであろう。志ん朝は、ジブリ映画『平成狸合戦ぽんぽこ』でナレーションを務めているので、落語ファンでなくても、その声に聞き覚えがある人も多いはずだ。ただ、与太郎は刑務所上がりのヤクザもの。落語に関してもど素人で、落語家の家に生まれ育った(兄は十代目金原亭馬生)サラブレッドの志ん朝とは、環境がまるで違う。そもそも、本作での与太郎はまだまだ確固たる自分のスタイルが築けていないのが現状。これから師匠や経験によってどんどん成長してくので、今後の成長を見守りたい。

 ちょうど、第5巻からは、八雲と助六の過去編が終わり、与太郎が主人公の現代編に話が戻って来る。さて、与太郎はどんな噺家へと成長するのだろうか。
(文/高橋ダイスケ)

立川談志に古今亭志ん朝…人気マンガ『昭和元禄落語心中』で元ネタとなった落語家は誰だ?のページです。おたぽるは、マンガ&ラノベ作品レビューの最新ニュースをファンにいち早くお届けします。オタクに“なるほど”面白いおたぽる!

- -

人気記事ランキング

XLサイズ……
XLサイズって想像できないだけど!!