“ビッチ”“処女”と言葉が飛び交う!アイドルアニメの新機軸を打ち出した劇場版『Wake Up, Girls!』

2014.01.11

――毎週、何がしかのアニメ映画が公開されている現代日本。これだけ放映本数が多いと、全部見るのは至難の業……。そんな悩める現代オタクのために、「おたぽる」が送るアニメ映画レビュー! ※本文中には“ネタバレ”が含まれていますので、ご注意ください。

■劇場版『Wake Up, Girls!七人のアイドル』

『Wake Up, Girls!』公式サイトより。

【本作のオススメ度】
★★★★☆

【極私的オススメポイント】
 ラストの「タチアガレ!」ライブシーンは一見の価値有り! 『涼宮ハルヒの憂鬱』や『らき☆すた』、『THE IDOLM@STER』(以下、『アイマス』)などの音楽を手がけてきた神前暁氏の秀逸な楽曲に合わせて、7人が動く動く。すべて手書きで7000枚のセル画を使っているというから驚きです。そんな究極の作画で見せてくれたのは、なんとパンチラ。しかもチラっていうか、思いっきり見えてる。なんかもうディティールまでわかる。これは反則です……。ごちそうさまでした。さらにこのダンスシーン、声優陣のリアルな踊りの癖も完璧に再現しているとか……。今後もこの作品のキモとなる2次元と3次元のシンクロに期待!
 
 そして筆者のような仙台ファン(?)には嬉しい情景描写のリアルさ。仙台駅前のペデストリアンデッキ(実は規模が日本一大きい)、青葉山公園から望む町並みなどが忠実に再現されています。まるで仙台に居るかのような感覚に、それだけで胸がじんとしてしまったり。『かんなぎ』でも舞台にした山本寛監督(以下、ヤマカン)が最も愛する街のひとつ・仙台に、ついつい行きたくなってしまうはず。さあ、聖地巡礼の準備はOK?
 
 ちなみに筆者は大人っぽさと巨乳が魅力の菊間夏夜(CV:奥野香耶)ちゃん推しです!
 



 時は2013年7月──国民的アイドルグループ「AKB48」……ならぬ「I-1(アイワン)クラブ」が大活躍する、アイドル戦国時代。そんな中、仙台の弱小芸能事務所「グリーンリーヴス・エンタテインメント」は経営難に陥っていました。そこで社長の丹下順子(CV:日髙のり子)は、「アイドルは金になる!」と思いつき、仙台発の新たなアイドルグループを売りだすことに。社長に言われるがまま、駆け出しマネージャーの松田耕平(CV:浅沼晋太郎)はアイドルの卵探しに奔走します。

 そして開催したオーディションに集まったのは、6人の女の子。ごく普通の女子高生の林田藍里(CV:永野愛理)や民謡が得意な片山実波(CV:田中美海)、芸能経験豊富な七瀬佳乃(CV:青山吉能)など、キャラクター性もモチベーションもまちまちな彼女たちでしたが、とりあえずは「Wake Up, Girls!」(愛称:WUG!/ワグ)という名のグループ名を結成! しかしこのネーミング、事務所近くのラブホの名前から取った模様……! 社長、適当すぎます……。
 
 ダンスレッスンやボイストレーニングに励む6人でしたが、社長と松田は彼女たちには何かが足りないと感じていました。そう、6人の中にはセンターとなり得る存在がいなかったのです。そんなこと言ったら6人がかわいそう! と思いましたが、彼女たち自身もそう感じている様子で……。

 そんな時、松田の目の前にひとりの少女が現れます。彼女はかつて「I-1クラブ」のセンターを務めながらも突然に表舞台から姿を消した島田真夢(CV:吉岡茉祐)でした。なんてグッドタイミング! 
 
 なんとかして真夢をWUG!のメンバーに入れようとする松田でしたが、真夢は頑なに拒否。どうやら過去になにかあったようですね……。松田がネット(2ちゃん?)で検索していた真夢の記事には「ビッチ」なんて文字も……。
 
 一方、藍里たち6人はなんとかまとまり始め、デビュー曲も決定していざデビュー! という時、信じられないことに丹下社長が資金を全て持ちだして蒸発。松田と6人が途方に暮れる中、事務所に真夢が現れ──。


 

 端的に言うと、意外と良かった。正直なところ、あまり期待をせずに観ようと思っていたのですが、短編映画として良いものに仕上がっていたなぁというのが感想です。ストーリーは奇をてらったものではなく、想像通りの展開。ですがテンポがよく、退屈だなとも、無理な展開だなとも感じさせない。上映時間をうまく配分し、「ああ、あと少し、もう少しだけ観たい」と思わせるかなり絶妙な長さにまとめ上げていたな、と。

 見る前は、「今さらアイドルもの?」と思っていました。ここまで『アイマス』シリーズや『ラブライブ!』が確固たる人気を築いた後で、アイドルアニメ市場に入っていけるのか……いや、正直難しいんじゃないかなと思ってもいました。しかもヤマカンで、公開前にガンガン宣伝……これは、見てがっかりするパターンなのではないか、と心配していたんです。

 ですが、良い意味で裏切られたと思います。私はもともと『アイマス』がかなり好きなほうで、『ラブライブ!』もイケる口。このアイドルアニメ2大勢力とどう戦っていくのかが見ものだなあと思っていたんですが、観た後は、どちらとも違うなと確信。アイドルアニメの中に新たなジャンルを確立したのでは?
 
 人間のキラキラと輝く部分だけでなく、醜いところやどうしようもない感情も描かれているのがこの映画。作中には“金”とか“処女”とか生々しい言葉も多々登場します。アニメ作品においてそれが必要かと言われたら、必要ないかもしれません。でも、そういった要素がいい具合に映画の中でスパイスになっていたと思います。いやに現実的な部分と、キラキラした非現実的な部分が上手く調和している感覚です。
 
 少し揺れがある作画はわざと? 完璧に綺麗すぎるものよりも人間味があって好感が持てますね。そして2000人の中からオーディションで選ばれたまったくの新人声優たち7人の演技は、もちろん素人感満載ですが、そこも味。声優っぽさがないところが、ジブリ映画を見ているような印象でした。そして彼女たち7人、これからどんな風に成長していくのか……? その過程を見る楽しみもあるってわけですね。キャラと声優の個性や見た目を同じにするなど、2次元と3次元の境目をなくした演出も見どころです。 映画を1度観ただけでは、正直キャラクターの名前は覚えきれません。でもそれぞれのキャラの個性はしっかりと、かつ押し付けがましくなく、出ていた印象です。
  
 ヤマカンがこの作品の根底に置いたのは“東日本大震災復興支援”。筆者の推しキャラ・菊間夏夜を演じる奥野香耶は岩手出身とのことですし、彼女たちが仙台を中心に東北を盛り上げてくれるのに期待したいところ。どこまで人気が出てその役目を負うことができるかは、映画版だけでなくテレビシリーズの出来次第でしょうか。テレビシリーズのレビューも始めますので、お楽しみに!(テレビレビューはこちら
(文/ロペ子)

■『Wake Up, Girls!』公式サイト
http://wakeupgirls.jp

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