『江戸モアゼル』江戸時代の人が教えてくれる現代人が忘れてしまった大切なこと…温故知新の読書サプリ

 タイムスリップは、マンガのベタとも言うべき定番、かつ人気の設定だ。その設定を採用しているマンガは、『ふしぎ遊戯』『遙かなる時空の中で』『天は赤い河のほとり』『犬夜叉』『JIN-仁-』などたくさんあるががあり、中にはマンガの枠に収まらず、TVドラマ化されたものもある。

 タイムスリップと言えば、

・主人公が現代から飛ばされる
・その時代の著名人と知り合い、巻き込まれる
・イケメンと恋に落ちる

 大体以下の3項目が設定に含まれるのであるが、これらと全く逆の設定を用いたのが幻冬舎から出版された『江戸モアゼル』(著:キリエ)だ。

 江戸時代、吉原の「廓」で生き抜いてきた仙夏。その店の奉公人として働いていた平吉と仙夏の後輩の寿乃。この三人が、転んだ拍子に、なぜか江戸時代から平成の現代にタイムスリップしてくるところから話が始まる。江戸と平成の文化の違いに戸惑いながらも、なんとか暮らしていくためにアルバイトに明け暮れる三人。不思議と現代になじみつつも、女郎の技である色香や、苦労を重ねてついた度胸で突き進もうとして、平成の人々を大騒ぎ、大騒動に巻き込んでいく。

 さて、タイムスリップしてしまう原因や科学的根拠は置いておき、この漫画の見どころといえば、なんと言っても浮世絵調に描かれるタイムスリップ組の面々だ。現代人の描写は現代のギャグ漫画といったタッチなだけに、そのイラスト上でのギャップと、平成の人と江戸・廓の人間のちょっとした行動の違いがその浮世絵描写によって、ギャグマンガとしてだけではなく社会風刺とも言えるシュールさにあふれている。

 例えば仙夏の後輩の寿乃は物語が進むにつれてどんどん現代になじんでいき、メイド系・ギャル系・お嬢様系…と進化していく。しかし描写は相変わらず浮世絵だ。そのアンバランスさに筆者のセンスを感じてならないわけだが、やがて寿乃は江戸ではかなえられなかった玉の輿の夢を自ら掴んでいく。ディズニープリンセスばりのサクセスストーリーが展開されるわけだが、これがどこか淡々と第三者的視点で描かれ、女性の欲というのはいつの時代も同じなのだと気づかされる。
 
 また、仙夏は時々江戸の時代を懐かしみ、その風俗を口にすることがあって、そこで女郎の生活、江戸庶民の生活を垣間見ることができるのだが、当然現代では想像できない厳しい生活を送ってきているわけだ。その経験から現代の若者たちに活を入れていくシーンは、考えさせられる面もあり、爽快さを味わうこともできる。

 現代の日本人が忘れかけているものを多く思い出させ、考えさせられる今作は読み終わった後にとても満足感を与えてくれる。1巻だけで完結しているのが実にもったいない。できるなら続編を望みたい。江戸からタイムスリプしてきた仙夏たちがどうエンディングを迎えるのか、ぜひ作品を手に取ってもらいたい。
(文=藤原苺)

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