『デビルズ・ダンディ・ドッグス』発売記念インタビュー

サブカル系WEBマンガサイト「ぽこぽこ」で異彩を放った『デビルズ・ダンディ・ドッグス』が目指したもの

「おたぽる」でも「Kindleでも読める30年前の名作プレイバック」を連載中の村田らむ氏が原作を担当したマンガ、『デビルズ・ダンディ・ドッグス』(太田出版)が12月3日に発売された。同作は、マンガ家の北上諭志氏と共に、太田出版が手がける無料のWEBマンガサイト「ぽこぽこ」にて連載してきたものだ。

「ぽこぽこ」といえば、古屋兎丸氏の『ぼくらの☆ひかりクラブ』やえすとえむ氏の『その男、甘党につき』、そのほか志村貴子氏や中村明日美子氏の作品を掲載するなど、比較的女性ユーザー向けのラインナップとなっている印象がある。しかし、この『デビルズ・ダンディ・ドッグス』においては、マフィアやらヤクザやらがバンバン殺し合う、完全な男性向け作品。そこには、何か狙いがあったのだろうか……?

 ということで、今回は村田らむ氏・北上諭志氏両名に話を聞くと共に、同作の編集担当者・的場容子女史にも話を聞いてきた。

131225_rum_kitagami.JPG原作の村田らむさん(左)と作画の北上諭志さん(右)


***

――『デビルズ・ダンディ・ドッグス』は、原作をらむさん、マンガを北上さんが担当するかたちで作られた作品ですが、まずはそのきっかけから教えてください。

北上諭志(以下、北上) 実は僕、まさしく「ぽこぽこ」の女性作家さんたちが描くようなマンガが大好きで。「少年週刊ジャンプ」で連載されていた『ホイッスル!』(共に集英社)で樋口大輔さんのアシスタントをしていた時も、「ひげ面乙女」というあだ名を付けられていたくらい、思考は乙女心全開なんです。実際、その前には「COMIC LIVE!」で『Bye Bye Blackbird』(COMIC LIVE! プロジェクト)っていう遠距離恋愛モノを描いていたんですよ。ただ、その一方で、映画はギャングモノやマフィアモノが好きだったりして、いつかマンガでも描いてみたいという思いがあったんです。それで、せっかく描くなら、ほかのバイオレンス系マンガとはひと味違う、リアリティのある作品にしたくて。どっぷりハードボイルドな世界を取材してきた村田さんに組んでもらえたら、面白いものができるんじゃないかと思ってお願いしたんですよ。

『デビルズ・ダンディ・ドッグス』公式PV(YouTube動画【poco2video】より)


――ただ、らむさんの場合、ご自身でもマンガを描かれるので、わざわざコラボしなくても……とはならなかったんですか?

村田らむ(以下、村田) いやあ、僕の場合、マンガも描くからこそ、その大変さもわかっていますからね。「原作だったら楽そうだな~」と思って引き受けたんですよ(笑)。……というのは半分冗談で、僕がマンガを描くのは、主に実話誌なんですね。実話誌の場合は、あくまでノンフィクションですから、状況説明がかなり必要になってくる。だから、同時に実話誌のマンガ原作もたくさん手がけてきましたが、“ストーリーマンガ”は自分で描くのは難しいなと思っていたんです。

北上 実際、村田さんの場合、ルポライターとしての立場上、裏社会をかなり俯瞰して見ているんですよ。言い方を変えれば、ドライというか、キャラクターとの距離があるんです。ただ、マンガの場合、ある程度キャラクターに寄り添う必要もあって……村田さんから上がってきた原作だともっとドライに描かれていた部分を、マンガ的に感情を入れて描き換えさせてもらったところもありました。そういうやり取りもまた、面白かったですね。

村田 本当はラストとかも、全滅させるパターンがよかったんですけどね(笑)。明るく淡々と、みんな死ぬ! みたいな。

――北上さんのおっしゃる“らむさんのドライさ”って、まさしくこういうところですよね……(笑)。ともあれ、客観的に“説明する”“伝える”から、“見せる”“魅せる”に変換していったというわけですね。

北上 実際、マンガだと“見得を切る”と言って、大ぶりにコマを描くことがあるんですね。実話誌のマンガだったら、そんなスペースのムダ遣いをする余裕がないんですよ。そういった意味でも、同じ裏社会モノでも、実話誌の作品とはまた違ったものになったんじゃないかなと思います。

――お2人の中である程度作品の構想が固まって、それからなんでまた、サブカル系のマンガを多数出版している太田出版で、ということになったんですか?

村田 このマンガの構想自体は、2011年の震災の直前くらいにはできていたんです。ただ、やるからには死体描写もしっかりと描き込みたかったし、「今じゃないな」ってなって。それで、今年に入って、そろそろ大丈夫かなと思っていたところで、太田出版の外部編集さんと話が盛り上がったんですよ。

的場容子(以下、的場) ちょうど、当時の編集長が新井英樹(『宮本から君へ』など)さんの作品のようなテイストが欲しい! と言っていた時で、暴力だのクスリだのが満載だったこの作品が、ピタッとハマったんです。

――それまでのラインナップを考えると、「ぽこぽこ」にとってはチャレンジ作品だったように思いますが、読者の反響はいかがでしたか?

的場 「ぽこぽこ」の場合、「フキダシ」を使って「ホメる」という機能がついていて、読者のコメントが作品に直接ついていくので、その反応がわかりやすいんですね。それで、明らかにそれまでとは違う読者層が読みに来てくれていることがわかりました。「実在する“伝説の殺し屋”を描き——」と謳っているように、「どこまでが本当なんだろう?」という、マンガ以外の楽しみを感じてくれている人も多かったんじゃないかな、と思います。

北上 僕らも、あのフキダシで、“イケメンの大切さ”を知りましたね(笑)。主要キャラクターのひとり「紗倉(さくら)」のファンがけっこう多くて、「このコマがいい!」みたいな、ストーリーとは関係なく、読者もキャラクターの描き方を見たりするんだ、という発見がありました。

村田 紗倉は、もともと描きたかったキャラクターなんですよ。裸で逃げるシーンをやりたくて(笑)。

131225_rum_kitagami01.jpgイケメンが裸で逃げるシーンはコチラです。(c)北上諭志・村田らむ/太田出版


――周囲を気にしないイケメンが裸で恥じらいなく走るとか、腐女子も食いつきそうですよね。

的場 そうなんですよ! ただ、連載中にも「紗倉の人気がすごいです!」と、読者からの反響をお2人に伝えていたんですが、お2人はそれに動じることなく、最後までブレずに描ききってくださったんですね。結果的に、その“できあがった男性だけの世界観”だからこそ、よかったのだと思います。女性に媚びていないからこそ、ウケたというか。

――それは、かなり同意です(笑)。こっち(女性読者)を甘やかしてはくれないからこそ、ついつい追いかけてしまう……みたいな心理が働きますよね。

北上 それ、前に「ジャンプ」読者の女性からも聞いたことがあります(笑)。

――ちなみに、実際、作中に描かれているどこまでが本当なんですか?

村田 まあ、少しずつ本当ですかねぇ。

――また意味深な……。

村田 作中に、「佐藤」という潔癖性の殺し屋がいるんですが、彼については、モデルがいます。昔、知り合いから、ある殺し屋の話を聞いたことがあって。外国人の殺し屋なんですが、なんでも、依頼を受けると観光ビザでふらっと日本に来て、凶器となるナイフをもらってサクッと殺して、報酬の代わりに高級スーツを買ってもらい、それを着て、また自分の国に帰っていく……っていう。

北上 そのスーツ、どうするんですかね?

村田 コレクターなんじゃないの?

――え? スーツのために人殺します? でもまあ、そんな映画みたいな話、本当にあるんですね。

村田 ビルの建設予定地に人を埋めちゃうとか、全然ありますよー。昔、「ちょうど人を殺してきたところ」っていう人とも、普通に喫茶店でお茶を飲んだことがありますし。みんなね、人を殺した人は別世界の人みたいな気がするんですけど、実は全然そんなことないんです。ヤクザとかドラッグとか殺しとか、そんなのその辺に普通にある話。『デビルズ・ダンディ・ドッグス』では、そういうのが少しでも伝われば……と思ってますよ。

――できれば、そんな現実は知りたくないような……いや、でもやっぱり覗いてみたいですね(笑)。

(文/編集部)

●村田らむ(むらた・らむ)
1972年、愛知県生まれ。イラストレーター、ルポライター。著書に『こじき大百科』(データハウス)、『ホームレス大図鑑』(竹書房)など多数。最新刊『ホームレス大博覧会』(鹿砦社)も好評発売中。

●北上諭志(きたがみ・さとし)
奈良県生まれ。マンガ家、イラストレーター。『Bye Bye Blackbird』(「COMIC LIVE!」)ほか、サブカル系の実録マンガなども手がける。

☆「ぽこぽこ」は2014年に3周年を迎えます! それを記念して、リニューアルも予定中。
「ぽこぽこ」はコチラ⇒http://www.poco2.jp

デビルズ・ダンディ・ドッグス

デビルズ・ダンディ・ドッグス

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