舞台『ライチ☆光クラブ』再演記念インタビュー【後編】

古屋兎丸作品に描かれる“少年愛”と“没落美”……「JUNE」『ジャングル大帝』からの影響も

(前編はコチラ)

 後編では東京グランギニョル&飴屋法水の魅力から『ライチ☆光クラブ』の執筆に至る経緯、さらには近年の古屋作品に通底する少年愛や没落美についても踏み込んで話を聞いた。

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古屋兎丸作品に描かれる少年愛と没落美……「JUNE」『ジャングル大帝』からの影響もの画像1

――東京グランギニョルの活動期間って、実質4年程度とすごく短いじゃないですか。本当にピンポイントで観に行けたんですね。

古屋兎丸(以下、古屋) まさにスポッとはまった。中学時代だったら観ていないでしょうし、大学生になってからは現代美術とかそっちのほうに興味が移っていたので。アングラな世界とはしばらく離れちゃうんですよ。

――ほとんど知識のない状態で初体験した東京グランギニョルの舞台は、いかがでした?

古屋 鳥肌モノですよね。これまで観たことのない世界ですから。「なんだこれは……」って感じで。演劇ってチケットも高いし、高校生はそんなに観に行かないじゃないですか。

――「ガラチア」「ライチ光クラブ」の後も、東京グランギニョルを追っかけていたんですか?

古屋 「ライチ光クラブ」の後に上演された「ワルプルギス」は観ています。少年の血しか吸わない吸血鬼の話。

――その「ワルプルギス」を最後に解散してしまい、今や幻の劇団とも言われている東京グランギニョルですが、考えてみたら当時の飴屋法水(東京グランギニョルの創設者で演出家/「ライチ光クラブ」ではジャイボを演じた)さんって、めちゃくちゃ若いんですよね。

古屋 まだ20代前半ですね。ものすごい美形でした。信じられないくらいの。

――ただ86年には東京グランギニョルも解散してしまったし、それからの20年近く「ライチ光クラブ」のことも忘れていたわけですよね。

古屋 そうですね。大人になってからは、そういうアングラなカルチャーからは少し離れていましたね。でもね、高校生の時にハマったものって、30歳を過ぎてから来るんですよ。20代の頃は、とにかく新しいもの、新しいものと追っていくけど、30歳を過ぎてからは徐々に古いものに回帰していく。だから『ライチ☆光クラブ』も急に描きたいと思ったんです。

――具体的なきっかけがあるわけではないのですね。

古屋 「ビッグコミックスピリッツ」で週刊連載の『π(パイ)』(02〜05年)を描いていた時に、「あと1巻で終わります」という段になって。「次は何を描こうかな…」って、ふと目を閉じたら、その瞬間「ライチ光クラブ」が浮かんだんですよ。感覚としては数秒だったと思うんです。「何を描こうかなぁ……。あ、ライチだ!」って。すぐに太田出版に電話して当時の「エロティクス・エフ」編集長に説明したら、「なんだかわからないけど、古屋さんがそう言うなら、いいんじゃないですか」みたいな反応で(笑)。

――編集長にとっては「ライチ光クラブ」???……って感じでしょうからね。

古屋 とはいえ僕のほうも観劇してから20年近くたっていたわけだから、「描きたい」と言ったものの内容をあまり覚えてなくて。少年がたくさん出てきて、ゼラという人物がいて、ライチが最後に彼らを殺す…というのは覚えていたんですけど。なにしろ一度しか観ていないので、細かい部分はすべて忘れていて。

――ビデオ等にはなっていないんですよね?

古屋 なっていない。何も残っていないんですよ。「だったら全部作っちゃおうかな」とも思ったんですけど、その前にmixiのコミュニティを利用して「オフ会を開いてくれませんか?」と参加者に呼びかけてみたんです(飴屋法水コミュニティにおいて2004年10月10日に「グランギニョルのビデオを探してます」というトピックを古屋氏が立てている)。そうしたら当時、衣装を担当していた方や役者さんが集まってくれて、手書きの台本をコピーして持ってきてくれたんです。そのほかにも東京グランギニョルのファンで、客席で隠し録りをしていた方がカセットテープを持ってきてくれて。そうしたものを見たり聞いたりすることで、かなり鮮明に思い出すことができて、無事に着手することができました。もちろん、舞台と漫画では内容はだいぶ違うのですが、雰囲気は再現しようと思っていたので。

――それまでに飴屋法水さんと交流があったわけではないんですね。

古屋 ないです。『ライチ☆光クラブ』の第1回が掲載されたくらいかな。そのあたりでお会いして。初めてお会いした時は緊張してほとんどしゃべれなかったですね。

――漫画化に関しては快諾いただけました?

古屋 はい。飴屋さんは“来る者は拒まず”という姿勢の方なので「いいよ、いいよ」って。グランギニョル時代もそうだったらしくて、「入りたい」と希望したら「どうぞ」という。ただ嶋田久作さん(「ライチ光クラブ」でライチ役を怪演)は飴屋さんがスカウトしたらしいですけど。

――嶋田さんのインパクトも、すごかったのでは?

古屋 それはもう、でかいですよね。まあ僕だけじゃなくて、みんな衝撃を受けたと思います。

――『ライチ☆光クラブ』を描いている時は、漫画版を原作にした舞台ができたらいいなという思いはあったのですか?

古屋 そこまでは思っていないですね。2次的なことは、自分でどうこうできる問題ではないので。ただ今回の舞台に関しては、漫画兄弟のメンバーでもある平沼紀久(以下、ノリ)が尽力してくれたおかげなんです。漫画兄弟はもともと僕とPENICILLINのHAKUEIでグッズのデザインや絵本の企画などを進めていたユニットだったんですけど、2人とも作りっぱなしで売り込みとかは全然できないんですね。その後(2008年頃)、HAKUEIと仲の良かった俳優のノリが加わってくれて。当初は「HAKUEI兄さん、兎丸兄さん」みたいな感じで子分気質全開だったんですけど、だんだん俳優としてキャリアを積んで発言力も持つようになって、僕の作品の映像化や舞台化に協力してくれるようになりました。今回の舞台化も、ネルケプランニングの社長にノリが直談判してくれたんですよ。だからニコ役で出演もしていますけど、クレジットには企画者としても名前を連ねています。

古屋兎丸作品に描かれる少年愛と没落美……「JUNE」『ジャングル大帝』からの影響もの画像2

――漫画版『ライチ☆光クラブ』には少年愛的要素が盛り込まれましたが、腐女子的な見方をされることに抵抗はないですか?

古屋 どんな見方をされても読む側の自由なので、とやかく言うことではないし、むしろコスプレをしたり2次創作してくれたりすることはうれしいことですね。僕の知らないところで、自分の作品を大勢の人に宣伝してくれているのと一緒ですから。もともと僕自身も「JUNE」の読者でしたし、少年愛漫画と受け止められても別に構いません。

――近年の古屋作品に通底していることですが、常に没落美が描かれていますね。

古屋 若いうちに散るという、白虎隊的な物語に惹かれているところはあります。

――何か影響を受けた作品はありますか?

古屋 強烈な印象を受けたのは『ジャングル大帝』の最終回ですね(吹雪の山中でレオが一緒に下山していたヒゲオヤジに自分の肉を食わせ、毛皮をまとわせて死んでいく)。小学生の時に読んで、あまりの展開に座布団に顔をうずめて「せつないよ〜! せつないよ〜!」と泣いたのをよく覚えています。『火の鳥』などにも栄光と没落が描かれていることが多くて、当時の手塚治虫作品から受けた影響は大きいですね。

――高校時代の衝撃が心の奥に残っていて、『π』が終わってからふと思い出して漫画を描いて、その漫画を元にした舞台が生まれて…。とても幸せなサイクルですよね。

古屋 漫画を通して東京グランギニョルの名前を知った人もたくさんいると思うと、感慨深いですね。漫画にしなかったら一部のマニアックな人の心の中に残っているだけで、だんだん忘れ去られてしまう運命だった。そこへあらためて記憶の楔を打ち込めたという点では、役割として大きかったなと自分でも思います。

――80年代版と比べて現代版「ライチ」は、どんな舞台ですか?

古屋 演出と脚本を手掛けている江本純子さんの特異な才能が、フルに出ている演劇ですね。演出手法は違えど、アングラ魂みたいなものが彼女の奥底にもある。江本さんはグランギニョル版の脚本も読んでないし、僕の聞いた当時の音声も聞いていない。純粋に漫画を読んで作ったものだけど、当時の小劇場感みたいなものがすごく出ています。

――1年ぶりの再演になりますが、まだまだ待望感が大きい舞台。どんどん人気も拡散していきますし、「ライチ☆光クラブ」は終わらない物語になりそうですね。

古屋 できれば『ロッキー・ホラー・ショー』のように、ずっと続いてくれたらうれしいですね。年末の風物詩として「今年もライチの季節がやってまいりました」みたいな感じでね(笑)。

(構成/奈良崎コロスケ)

●古屋兎丸(ふるや・うさまる)
1968年、東京都生まれ。多摩美術大学美術学部絵画科(油絵専攻)卒業。94年に、「月刊漫画ガロ」(青林堂)に掲載された『Palepoli』(パレポリ)でデビュー。高校の美術講師をしながら活動を続け、初の週刊連載『π(パイ)』(小学館)をきっかけにフリーの漫画家になる。現在、「ジャンプSQ.」にて『帝一の國』(集英社)を連載中。

●舞台『ライチ☆光クラブ』再演
昨年の初演が大好評を博し、今年再演が決定した舞台「ライチ☆光クラブ」。メインキャストはそのままに、カノン役として佐津川愛美を新たに迎え、前回描かれなかったカノン・ライチのシーンが追加されるなど、スケールアップして帰ってきた。チケットは残りわずか! ぜひ、今年の「ライチ☆光クラブ」も見逃さないでほしい。

日程:2013年12月16日(月)〜24日(火)
場所:AiiA Theater Tokyo (アイア シアタートーキョー)
原作:古屋兎丸(太田出版)
脚本・演出:江本純子(毛皮族)
出演:木村 了(ゼラ)、中尾明慶(タミヤ)、玉城裕規(ジャイボ)、平沼紀久(ニコ)、佐津川愛美(カノン)ほか

★『ライチ☆光クラブ』公式HP<http://www.litchi-hikari-club.com/
★チケット情報<http://www.nelke.co.jp/stage/litchi-hikari-club2013/

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