【Business Journalより】

至道流星『大日本サムライガール』ビジネス系ライトノベル誕生? 主人公は右翼の女子高生、著者はガチの経営者!

 「主人公は、政治の頂点を目指す右翼かつタレントの女子高生」
 「著者は現役の企業経営者」
 「芸能界をはじめとする現実のビジネスや社会に関する内実について、リアルな描画」

 こうした特徴を持った、ある異色のライトノベルが売れている。

 日本を根底から変えることを目指すひとりの女子高生が、芸能プロダクションを立ち上げた男性とタッグを組み、政治結社の党員を集めるべくアイドルへと転身、世間を席巻していく様子が描かれた『大日本サムライガール』(星海社)である。今年7月に出版された第1巻はすでに3刷となり、20〜30代を中心に大きな反響を呼び起こしている。

 そして今回、第3巻が出版されたのを機に、著者である至道流星氏に

 「なぜ経営者という本業がありながら、小説を執筆するのか?」
 「2つの顔をどのように両立させているのか?」
 「奇抜なストーリー設定は、どのように着想したのか? そして今後の展開は?」

などについて語ってもらった。

――至道さんは、企業経営者という本業を持つ傍ら、「ライトノベル」を執筆する異色の小説家ですが、そもそも、小説を書くようになられたきっかけはなんだったのでしょうか?

至道流星氏(以下、至道) 私は大学在学中に会社を創業し、一貫して経営者としてキャリアを積んできました。そして数年前、誰に頼まれたわけでもなく、当初はなんとなくビジネス書を書いてみようと思い立ちました。書き進めるうちに、「これはフィクション仕立てにしたほうが面白いのでは」と思い、小説の形式で書き、09年に講談社BOX新人賞へ応募したところ、大賞を取ってしまったというのが実際のところです。その大賞受賞作品である『雷撃SSガール』(講談社BOX)が、そのままデビュー作として出版されました。

――小説の書き方などは、どのように学んだのですか?

至道 まったくの自己流です(笑)。そもそも私は、今でも小説含めた一般向けの本はほとんど読みませんし、誰かから小説の書き方を教えられたこともありません。

――経営者である至道さんが、小説を書き続ける理由はなんでしょうか?

至道 言い方が難しいのですが、私は小説を書いていること自体が「政治活動」だと思っています。その意味は「自民党を支持する」「民主党を支持する」といった話ではなくて、小説が唯一の社会との接点であり、「小説を通してのみ社会と関わりたい」ということです。それが「政治」という言葉が正しいのかどうか、なんとも言えないですけれども……。私は基本的に「社会と関わりたくない、離れて生きていきたい」と思っていますが、だからといって何もしないわけにはいかない。ならば、小説を通してのみ社会とかかわろうと。それがぼくの唯一の社会貢献なので「政治活動」と表現したわけです。作品と私のプライバシーは完全に切り分けるスタンスでやっています。

――至道さんは、小説家の顔を持つ一方で企業経営者でもあるわけですが、「社会との接点」という意味では、この2つは違うものですか?

至道 まったく違います。ビジネスは基本的に自分の生活を豊かにするためにお金を稼ぐ活動です。もちろん、クライアントのためとか、そういう面もあるかもしれませんが、基本的には私は報酬をもらってそれ以上の仕事を返せば、そこで終わりですね。しかし、小説はまったく違うスタンスでやっています。

●空き時間を有効利用

――多忙な経営者としての本業がある中で、どのように執筆時間を捻出しているのですか?

至道 基本的に1日の時間のほとんどは、既存の自分の仕事で埋まっています。でも、必ず空き時間はありますよね。「次のアポイントまで1時間空いた」とか、「早めに着いたけれども、まだ30分時間がある」とか、そういうときには必ず喫茶店とかファミレスに入って、ノートパソコンを立ち上げて、とにかく書きます。そういう細切れの時間を足すと、1日に5~6時間になります。あとは、私は都心に住んでいるので、タクシーに乗ればどこにでも行ける。満員の通勤電車にも乗らないし、自炊もしない。むしろ書いていないと、何をしていいのかわからないくらい、時間が空いてしまうのです。

 丸一日本業の仕事がなくて、書く仕事だけやったことがあるのですが、7時間を超えたころから腕が痙攣したり、強迫神経症のような症状が出てきました(笑)。普通の仕事と執筆とは脳の別の部分を使っているので、それほど心身ともに一方にかからずに、うまくバランスが取れているのではないかと思います。

●思いつきからストーリーを着想


――『大日本〜』の具体的な内容についてお聞きします。右翼活動をする女の子が主人公というキャラクター設定とストーリー展開が非常に奇抜で、「ライトノベルの新しいジャンルを切り開いた」ともいわれていますが、そもそも、この小説を書くきっかけはなんだったのでしょうか?

至道 「政治的な街頭演説をしているのが、もし16歳の女子高校生だったら面白いのではないか?」という思いつきがきっかけで、それほど深く考えたわけではありません。右翼に対して特別に興味を持っていたわけではなくて、ヒロインのキャラクターとしてもってくるのであれば、ベストな組み合わせではないかと思いました。

 ただ、私自身は、小説を通じて特定の思想を押しつけようという気はまったくないです。この小説のあらすじを見た人は、「右翼思想を押しつけられる」というような誤解を受けてしまいかねませんが、私自身は、特定の思想のために活動するつもりはありません。ですので、個人的に考えていることを、他人に「こうだろう」と評論家ぶって表現するつもりはないということです。単純に小説を通して、いわゆる「現実のありよう」と言ったら大げさですが、「現実の社会はこうなっているんだよ」ということを、多くの学生や20代くらいの人たちに読んでもらうことで、多角的な考え方を見つけてもらいたいと思っています。

――主人公の日毬は、日本政治の頂点に独裁者として君臨し、この国を根底から変えたいと考えているわけですが、16歳の女子高校生がそのように考えるに至った背景・きっかけはなんですか?

至道 戦後67年経っても、日本の制度には悪い部分が残っていたり、ひずみが出てきたりしています。例えば、20代、30代の給料は一世代前の人の半分くらいで、朝から晩まで働いてもそれほど上がらない。さらに生活保護も問題になっているし、いろいろな社会問題が噴出している状況ですよね。

 もし日本に経済力がなければ、財政破綻でリセットされるかもしれませんが、日本にはまだ余力が残っているので、「社会を変えなくても、このまましばらくはいけそうだ」という妙な閉塞感が社会全体に漂っています。こうした閉塞感、将来に対する不安を、日本国民であればみんな感じているのではないでしょうか。そして、それをなんとかしなければいけないと誰もが思っているはずです。そういう「思い」の象徴が日毬であり、日毬はそれを具現化するために行動を起こしたということです。

●今までにない主人公像

――一般的なフィクションの場合、16歳の女子高生が主人公だと、「悲しいことがあったり、恋愛したりして、女の子がだんだん成長していく」というのが一般的なストーリー展開だと思います。しかし「大日本〜」では、日毬は絶対的な存在であって、迷いが見られず、むしろ颯斗といった周りの大人たちが日毬に感化されていくという、一般とは逆のストーリー構造なのが興味深いですね。

至道 どのようなコンテンツも、基本的には主人公や中心人物の成長物語ですよ。逆に言うと、そこしか面白く見せることができないから、みんながその技を追求し、研究し、ああでもない、こうでもないとやっているのが一般的な作品です。

 私自身はコンテンツクリエーターではなかったので、そういう軸は取っ払って考えています。単純にもっと面白ければいい。そのためには、主人公たちの成長物語が入ってくるかもしれないし、入らないかもしれない。私自身は、世間一般的な意味でのコンテンツの「埒外」でやっているので、ご感想は非常によくわかります。違和感を持たれる方もいらっしゃるかもしれませんね。

――10月に第3巻が出て、4巻はこの冬に出る予定とのことですが、今後の展開について教えていただけませんか?

至道 この作品の大目標は、1巻から語られているように、日毬がいかに日本政治の頂点に君臨し、日本を変えていくのかという点です。この大目標に到達するのは当然極めてハードルが高いわけですが、そこに至るまでの試行錯誤を通して、「日本のすべて」を盛り込みたいと考えています。これ、冗談ではなくて。

 1〜3巻までが一つのまとまりになっていまして、1〜2巻では颯斗にもいろいろ迷いがあったり、日毬とのずれがあったりしますが、3巻が終わった時点で、日毬を取り巻く人たち全員の方向性/目的が初めて一致します。

 そして、今冬出版の第4巻では、日本共産党をモデルにした社会共産党という党が出てきて、ここの党員がアイドルになります。日毬は右翼ですが、それに対する左翼のアイドルですね。今後も各巻ごとにいろいろな思想や背景を持ったアイドルが登場する予定にしており、全体が一つの方向に動き、閉塞感を打破して、一つのビジョンを明確に示せる国にしていこうという方向性を考えています。

 日毬も現在は右翼的な思想を前面に出していますけれども、彼女は彼女でもっといろいろな考えを巻が進むごとに取り込んで、変わっていく部分もあるかもしれないので、そこはちょっとお楽しみですね。

●作中で登場するサイトを現実でもつくっちゃう

――『大日本〜』は、販売プロモーションの面でも、意欲的な取り組みを行っていますね。

星海社担当編集者(以下、星海社) 日毬が作中で開設するブログを実際につくったり、同様に作中の日毬の街頭演説を再現し、インターネット動画共有サイトで公開したりと、日毬の政治活動・タレント活動が特設サイトにて再現・公開されています。

 至道さんの原稿を読ませていただいた時に、本を出版するだけではなく、「小説の内容を、リアルの世界で具現化してみたら面白いのでは」という構想が頭に浮かびました。当社はデジタル(ウェブ)、ペーパー(出版)、イベントの3つを軸に活動しており、ウェブでは『最前線』というコンテンツサイトを運営しています。『最前線』でなら作中で登場する日毬のブログや音声ダウンロードも再現できると思いました。至道さんに相談したら、OKですよと快諾していただきましたし、社内でも「面白いからやれ」ということでしたので、いろいろと企画しています。

――ほかには、例えばどのような取り組みをなさっているのですか?

星海社 ウェブ上で、「1巻目は、まるまる無料で読めます」というのをやらせてもらっています。仮にちょっと本を読んだけれども、買うかどうか迷っている人とか、どういう話か知りたい人は、まずウェブで読むことができます。編集側としては、至道さんの作風がこういう感じというのを知ってもらえれば、新しい読者さんも増えるのではと思っていますので、この記事を読んでくれた人は、騙されたと思ってウェブ上で読んでもらえると嬉しいです。おもしろいですよ(笑)。
(構成=丸山隆平/ライター BJ2012.11.09既出)

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