前田日明から見た「三沢光晴の死、そしてプロレスの未来」

──その後、三沢さんは全日本を離れて、「NOAH」の社長をやりながらエースとして戦い続けることになります。その流れをご覧になっていたと思いますが。

「そこは本当に大したもんだと思っていた。全日本を飛び出したとき、自分より先輩もいっぱいいるわけじゃない。下だけでも大変なのに、上の人間もコントロールしてね。それに、日テレでの放映まで持っていって、そういう交渉力、経営能力だとか、正直すごいな、プロレス界にはちょっといない人間だな、と見ていました」

──前田さんも新日本からUWFで一度離れて、そのあと第2次があって、「リングス」があって、常に団体の先頭に立っていました。

「そう、だから大変なのは解るんだよね。それに三沢は、いい若手もたくさん育てていたし。丸藤(正道)とかあのへんのジュニア選手の動きなんて、ああ、もうここまでやったか、と感心したよ」

──その三沢が、亡くなりました。この事態を、ただ不運な事故だった、と言ってしまっていいのかどうか、多くのファンは戸惑っているように思います。

「不運な事故じゃないね、不運な事故じゃないと思うよ。(「週刊プロレス」に掲載されたバックドロップの)連続写真を見る限りでは、たぶん試合のどこかで失神状態になったんでしょう。それでもレスラーは夢遊病者のようにフラフラと動きますからね。それで、意識があるかないかという状態のまま投げられた。バックドロップにひねりが入ると、受けるほうも注意しなきゃいけないんです。アゴを引いて、回る方向に肩を持っていって受けなきゃいけないんだけど、失神している状態だとそのまま落ちてしまう。それで、折れてしまったんじゃないかと」

──試合の動画は、たぶん出てこないでしょうね。

「日テレのプロデューサーが見たっていうんで、どうでした? って聞いたら、これは絶対に放送には出せないと。三沢が落ちた瞬間に、全身がバッと青ざめるんだって。ほとんど即死だったみたいだね。その前にコーナーから投げ捨てられて、フラフラし始めたっていうんだけど、悲劇だったのはね、相手も、レフェリーも、セコンドも、みんなが『社長だから大丈夫だろう』『三沢だから大丈夫だろう』と思って、誰も注意して見てやれなかった。プロレスでは”セール”って言うんだけど、演技でするフラフラと、本当に効いているのと、ちゃんと見てれば分かるはずなんだけどね。それでも、頸髄(けいずい)離断っていうのは異常だよ。大ベテランの三沢がそうなるってことは、同じ状況が誰に起こってもそうなってたってことだからね。明らかに、あり得ないことが起こっていたってことだよね」

──誰にでも起こる可能性がある。

「ちゃんと検証しないとね、絶対また誰かやるよ。みんなね、自分たちが危険なことをやってるって認識がない。全員がプロレスをナメちゃってるんですよ。やってる人間も、レフェリーも、観客も。どっかで『大丈夫だろう』と。年間100試合もやってると、どんどん麻痺してくるからね。今テレビなんか見てると、投げ捨ての技で選手が変な角度で落ちても、セコンドやレフェリーが『あ、ヤバイ』って顔をしないんですよ。平気で眺めてる。俺たちが若い頃は『本気でコイツ壊したいと思ったら投げ捨てろ』と教えられた。それくらい危ないんですよ、投げ捨ての技というのは」 

──ただ、そういった過激な技の応酬や、投げ技の”危ない角度”は、ファンが求めたものでもあると思うんです。

「なんて言うかね、なんて言ったらいいのかな……、俺らが思っていたプロレスというのは、試合が始まる前にインタビューで何をしゃべるか、それで、なんで俺とあいつが戦うのか、そういう緊張状態を高めて、お互いに『やってやる!』という前提があって、『さぁ、どうなる?』っていう、そういうのがあるんです。ヤクザ映画で言うとね、組の対立をしっかり見せてから抗争をやる、というような。『何が起こるんだ!?』という緊張感だよね。今はそういうのは置いといて、いきなり機関銃や戦車を持ってきてドンパチやり始めるという風になってる」

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