特撮ヒーロー=童貞の概念を破る! 井口監督の集大成『電人ザボーガー』

――あぁ、正義一直線だと、現代社会では”空気の読めないヤツ”になっちゃう。

井口 そうです。大門が考える正義以外にも、企業にとっての正義とか、いろんな正義があることに大門は直面する。そこで大門に様々な体験をさせ、人間として成長していくドラマにしたかったんです。AVや舞台や映画など、ボクがこれまでにいろんな現場で経験してきたことが反映されていると思います。

――第1部の終盤でのミスボーグ「女はすべてを壊さないと愛を実感できないのよ」、大門「そんなの分かりたくないよ」というやりとりはシビアな男女の会話ですね。井口監督の恋愛観、女性観が集約されているように感じます。

井口 あのシーンに言及してくれる人、あんまりいないんで、うれしいです! ”大門は童貞である”というのがボクの解釈なんです。それで自分が童貞だったときに言われて困ったセリフって何だっけなぁと思いながら考えたシーンなんです。今回の『ザボーガー』に出てくる女性はほとんどサイボーグばっかりなんですけど、女たちはみんな、男に向かって過酷なことを要求するんです。

――自分の信念を貫くのか、愛を選ぶのか、大門の悩みは男全員にとって”究極の選択”ですね。

井口 そうなんです、そうなんです(苦笑)。人生って、しがらみなんです。仕事を取るのか、彼女を選ぶのか。さらに大門が信じる正義にも、いろんな種類の正義が存在することが見えてくる。大門はいろんなものの板挟みになっていくんです。

NYで井口作品が上映NYで井口作品が上映されると、会場はマニア熱で覆われる。「すごく、うれしい。でも、その状況に甘えちゃダメだと思うんです」と堅実なコメント。

――脚本を書いているときは、ご自身の結婚話が進んでいた頃なんでしょうか?

井口 もう付き合い始めてましたけど、まだ具体的な結婚話はしてなかったかな。でも、この作品を撮りながらも感じたことだし、最近もよく思うのが”責任”という言葉ですね。やっぱり、ひとりの女性と一緒に生きていく上で、人としての任務というか責任が生じると思うんです。恋人を自分の家族にするというのは、やっぱりそれはボクの責任だと思うし。大門なら正義をまっとうするという使命があるし。そういうことは、脚本を書きながらも撮影中もずっと考えていましたね。

――最後に井口ワールドは今後どうなるのか教えてください。マニアックな道を極めるのか、メジャー路線へとシフトチェンジしていくのか?

井口 オファーがあれば何でも撮りたいというのが、ボクのスタンスなんです。自分としては先ほど話したみたいに、人間ドラマを撮りたいんです。ドラマの演出をするのはすごく好きだし、役者さんと芝居を模索しながら作れるものがやりたいですね。今、考えているのは思春期の少年少女を主人公にしたもの。特撮なしで考えています。それに、おじいさんやおばあさんが観ても「面白い」と思ってもらえる作品を撮りたい。高齢化社会と言われているけど、意外とおじいちゃん・おばあちゃんが楽しめる作品は少ないんじゃないかと思うんです。社会問題をテーマに、笑ったり泣いたりできる娯楽作品を撮っていきたいですね。「スシタイフーン」レーベルで作った新作ゾンビもの『ゾンビアス』(2012年2月公開予定)も、もうすぐ完成します。幅広く作品を撮っていきたいなと思っています。意外とまっとうなことを考えているんですよ(笑)。『片腕マシンガール』や『ロボゲイシャ』を撮っているんで、どうしても非常識でアナーキーな人間だと思われがちですけど、そんなことはないんです。信号はちゃんと青になってから渡りますし、ゴミが落ちていたら拾いますよ。常識がないと、逆にハチャメチャな作品は撮れないんです。そのことは声を大にして言いたいですね(笑)。
(取材・文=長野辰次/2011.10.16日刊サイゾー既出)

『電人ザボーガー』
監督・脚本/井口昇 特殊造型・キャラクターデザイン/西村喜廣 アクション監督/カラサワ イサオ VFXスーパーバイザー/鹿角剛司 出演/板尾創路、古原靖久、山崎真実、宮下雄也(RUN&GUN)、佐津川愛美、木下ほうか、渡辺裕之、竹中直人、柄本明 

●いぐち・のぼる
1969年東京都生まれ。8ミリ作品『わびしゃび』(88)がイメージフォーラムフェスティバルで審査員賞を受賞。平野勝之監督らのもとで撮影現場を経験する一方、松尾スズキが主宰する劇団「大人計画」の舞台でも役者として活躍。主な監督作に『クルシメさん』(98)、『恋する幼虫』(03)、楳図かずおの人気コミックを映画化した『猫目小僧』(05)、『まだらの少女』(05)、谷崎潤一郎の文芸作品を映画化した『卍(まんじ)』(06)、永井豪原作コミックをスプラッター化した『おいら女蛮』(06)、北米で爆発的セールスを記録した『片腕マシンガール』(07)、井口流過激なガールズムービー『ロボゲイシャ』(09)、伊藤潤二の原作イメージに近い『富江 アンリミテッド』(11)などがある。TVシリーズ『栞と紙魚子の怪奇事件簿』(日本テレビ)、『ケータイ刑事 銭形命』(BS-TBS)、『古代少女ドグちゃん』(毎日放送)などのチーフディレクターも務めた。自伝的エッセイ集『恋の腹痛、見ちゃイヤ!イヤ』(太田出版)は古書店で見つけたら、ぜひ手に入れたい名著。

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