『ダメBL』レビュー

感動したとは言わせない? BL求道の果てには『ダメBL』があった!

 同作中に描かれたダメBLネタ「死化粧師×死体」(リバ可、初心者は知らなくてもよい言葉です)を見て、「いや情緒あると思うし、海外ドラマとかホラーではこれに近いフェティッシュな描写や演出もありそうな気がするんだけど……えっ、どこがダメなの?」と思った私でしたが、ふと「キミ、それ本気で売れると思ってる?」というどこかで聞いた言葉が頭をよぎりました。なるほど、万人受けしないニッチ過ぎるネタを「売れないからダメ」ではなく、むしろ「未知の可能性」とか「ストライクゾーンが広い」と前向きに捉えることが「ダメBL」の始まりだったのですね!

 えすとえむ氏の作品は、ムエタイBL『Khaa Thoong』。裏社会の「賭けムエタイ」で八百長試合を組まされるしか生きる術のない孤高のチャンピオンと、彼との対戦を熱望する挑戦者が、何もかも捨てる覚悟でただ一度の真剣勝負に挑むお話。挑戦者の「連れて逃げる」の言葉の裏に潜む、深い愛と思い入れに心を揺さぶられます。

 むしろこの作品で気になるのは、作品のダメBLさ加減ではなく、世界的な大衆文化コンベンション「コミコン・インターナショナル(Comic-Con International)」のアダルト・マンガのアワードにノミネートされたほどのえすとえむ氏が、なぜ「ダメBL」に興味を持ってしまったのか、という疑問。その真実は、BL業界の深い闇に潜らないと分からないのでしょう。

 桃山なおこ氏のサイクルロードレースBL『it must be』も、マイナースポーツの世界ですが、こちらはチームメイトと絆を深めるさわやかなお話でした。

 作家さん本人が「描きたい!」という思いを込めた選りすぐりのネタだということはどの作品からも感じられるだけに、スペースの都合ですべてを紹介できないのは残念です。他誌では実現しなかった作家さんの偏愛の詰まった作品は、ファンの方に新しい魅力を教えてくれるだけでなく、ニッチな萌えの扉も開いてくれるかもしれません。

 読みながら『ダメBL』の作品たちが、売れる・売れない以前になぜダメ出しされるのかという理由を考え抜いて、やっとたどり着いたのは、個人的お気に入りの「老人BL」(植松町江『夏のさいごに寄せて』)「古墳BL」(もろづみすみとも『却の河』)を再読したときでした。
 
「これ……BLじゃなくても、普通に感動する話だ!」

 ……そんな賞賛に耳を塞いででも「これを”BLで”読みたい・描きたい」とパッションをたぎらせる事自体が、ダメBLのアイデンティティーなのではないでしょうか。
(山口小夏)

(2011.12.17サイゾーウーマン既出)
ダメBL

ダメBL

スゴいブ厚い……。

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