マンガライター・小林聖が行く! ウェブ×マンガの現場 第1回

「となりのヤングジャンプ」を直撃【後編】 『ワンパンマン』は雑誌で絶対できない!

 前編では「となりのヤングジャンプ」設立の経緯から「となりのヤングジャンプ」のコンセプトまでを伺った前編はこちら。後編となる今回は、「となりのヤングジャンプ」が重視している“ウェブでの(作品の)見せ方”や作品制作の方法論、ビジネスモデルについて聞いていく。

「となりのヤングジャンプ」を直撃【後編】 『ワンパンマン』は雑誌で絶対できない! の画像1週刊「ヤングジャンプ」編集部の大熊八甲さん。

――マンガの中にクリックアニメを導入するなど、『ワンパンマン』は非常に挑戦的な作品ですよね。

大熊 村田先生はもともと『ワンパンマン』をやりたいというところがスタート地点だったので、手始めに『ワンパンマン』をウェブで連載し、その連載をしながらONE先生とのタッグ新作を雑誌で連載する予定だったんです。結果的に『ワンパンマン』がヒットして忙しくなってしまったので、新作のほうが現在はできない状況になってしまっていますが(笑)。

――今の作家さんは、デジタルで原稿を作ってる人も多いですよね?

大熊 『はじマン』のほった先生以外は全員デジタルですね。コミックスタジオやフォトショップなどのデータでいただいています。

――データ原稿とウェブの相性がいいとかはあるんですか?

大熊 特にメリットもデメリットもないんじゃないでしょうか。あ、しいていうなら書体(フォント)の関係ですかね。雑誌の場合、セリフなどのフォントは編集者が決めることが多いんですが、「となりのヤングジャンプ」では作家さんが自分でフォントを決めることも多いです。

――そういうところも作家さんがやってるんですね!

大熊 ケースバイケースですが。『ワンパンマン』は僕がやっていますが、『奥さまGutenTag!』や『魔界のオッサン』(ONE)は作家さんが決めています。どちらがいいというのはともかく、作家色はより強く出ると思います。

――「編集部ルールでフォントを揃えないと」とかはないんですか?

大熊 句読点を使わないとか、一応媒体としてのルールは作っていますが、そこはあまり厳しくしていません。ある程度、作品ごとのルールでいいんじゃないかということで、柔軟に対応しています。ただ、コミックスにするときはコミックスのルールにさせてくださいとお伝えしています。

――そのあたりも紙と変えているんですね。

大熊 そうですね。あと、スピード感はやっぱり違いますね。紙の場合、通常だったら発売の1週間前に雑誌ができていないといけない。そうすると、2週間前には原稿がないといけないんですが、ウェブは原稿を受け取ってわずか1日でなんとかなってしまう。ギリギリまで粘れます。

――『ワンパンマン』とかよくツイッターで「更新、もう少しお待ちください!!」ってアナウンスが出ますもんね(笑)。ウェブだなぁと思って見ています。

大熊 ギリギリまで戦ってるんです、「いけるか!? ……いけなかった……!!」みたいな(笑)。まあ、ウェブの場合、本当に最速で3~4時間で掲載まで持っていったこともありますので。本当は「何時頃アップできる」というアナウンスもしたいんですけどね。でも、アナウンスするとアクセスが集中してしまって、サーバに負荷がかかって作品のアップに時間がかかってしまうんです。

――そうか。告知しておけばおくほど、作品の公開が遅れる可能性が高くなっちゃうわけですね(笑)。

大熊 そうなんです。だから、いつも「アップしました」ってだまし討ちみたいなことしかできなくて、大変心苦しいんです…。もうネットでは「編集部は(待たせるのを)気にしてもいない」と思われてるんでしょうけど……。

■ターゲット層を想定しないビジネスモデル

――そういえば、ちょっと気になったのはバナーなんです。これだけアクセスがあるなら、バナー広告を貼ればそれだけでもかなりの収益になると思うんですが、どうして貼ってないんでしょう?

大熊 入れようかという意見もあったんですけどね。ただ、読者との距離を考えたとき、広告があると冷めちゃうかなと。純粋マンガサイトの方が作品にとってもよいかと。それと、正直なところ、どれくらいのアクセス数でどれくらいの値段になるっていう蓄積が僕らにはなくて(笑)。「好きに値段を付ければいい」といわれたんですが、僕らもよくわからない。調べればいいとも思いましたが、今の段階ではなるべくシンプルでいいかと。

――ビジネスの話でいうと、先ほどちょっと「電子書籍も」という話が出ましたが、将来的には電子書籍での販売も考えているんですか?

大熊 理想としては、紙のコミックスと電子書籍で両立するものを生み出せるサイトにしたいと思っています。『ワンパンマン』は紙とウェブで表現自体が違っていますから、極端にいったら紙と電子書籍、両方買っても面白いということができるはずなんです。それに、「ヤングジャンプ」とウェブ、「となりのヤングジャンプ」の読者って全然違うんですね。そういう意味で、ウェブや電子書籍は読者を増やしてくれる可能性を持っている。

「となりのヤングジャンプ」を直撃【後編】 『ワンパンマン』は雑誌で絶対できない! の画像2

――読者を増やすといえば、「となりのヤングジャンプ」のターゲットはどの層なんですか?

大熊 実はサイト全体としてはあんまり意識していないんです。作品ごとにターゲットがしっかりしていれば、全体としてはターゲットを想定しなくていいやと思っていて。そっちのほうが面白いと思うんですよね。ごった煮で。「裏サンデー」さんは、全部の作品を競わせる、いわば“読者アンケート方式”ですが、うちはどれか1作品“推しメン”があればいいと思ってます。

――なるほど。作品的にも本当にバラバラですね。『奥さまGutenTag!』なんかは、「ヤングジャンプ」ではまず出てこなそうな作品ですし。

大熊 ウェブのヒット作って狙って出せないと思うんです。紙の雑誌って、たとえば「少年マガジン」(講談社)さんは、企画の力でヒット作を作れるノウハウを蓄積していると思うんですが、ウェブは作家さんに委ねられている部分が大きい。『ワンパンマン』は、もともと、村田先生がONE先生に興味を持って、自主的にアプローチしたところから始まっているわけですから、狙って(ヒット作を)作ったわけではありません。その分、ホームランが出る可能性は高い土壌だと思うんですが。

――それってどういう違いなんでしょう?

大熊 例えば、紙の雑誌って、不文律的な縛りを持っていたりするんですね。あくまで仮の例え話ですが、「少年誌では男主人公でなくてはならない」みたいな。それは、「読者が感情移入しやすい」とか、これまで蓄積されてきた経験則に裏打ちされているわけです。でも、それって「破るとその雑誌では失敗しやすい」というだけで、絶対ではない。だから、作家さんが自分の描きたいものに勇気を持ってやれれば、失敗の可能性も高いけど、突然モンスターみたいなヒット作を生める可能性もある。作家さんの自由度が高いウェブは、大失敗も大成功も両方たくさん生まれやすい媒体だと思います。

――アマチュアリズムでしか生めない作品って、確かにありますよね。

大熊 『ワンパンマン』も、雑誌では絶対できない作品です。ページ数やマンガ表現の魅せ方、それに雑誌の場合、最初からアンケートを採って、様子を見ていかないと終わってしまう。けれど、『ワンパンマン』はONE先生が練習として描き始めたということで、最初からフルスロットルというお話ではない。後半になるほどどんどん面白くなっていきますから。そういうアマチュアリズムがいいなと思っています。
(構成/小林 聖)

■「となりのヤングジャンプ」
集英社の「ヤングジャンプ」編集部が運営するウェブマンガサイト。『ワンパンマン』(原作:ONE/作画:村田雄介)を筆頭に、『ヒカルの碁』の原作で知られるほったゆみ氏の『はじマン』や『f人魚』(作者:G3井田)、『奥さまGutenTag!』(作者:カロリン・エックハルト)といった個性豊かな作品が連載中。
http://tonarinoyj.jp/

■小林 聖
フリーライター。マンガ専門サイトnelja編集長。年間のマンガ購入量はだいたい1000冊ほど。専門はラブコメ・恋愛マンガ全般。ツイッターアカウントは@frog88。

奥さまGuten Tag! 1 (愛蔵版コミックス)

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あなたの"推しメン"を探すべし!

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