芸能界の論理に振り回される声優……芸能界を侵食する声優業界の功罪

【サイゾーpremiumより】

芸能界の論理に振り回される声優……芸能界を侵食する声優業界の功罪の画像1人気声優の水樹奈々は、今般の声優ブームの象徴といえる。(公式HPより)

──今年3月、アイドルグループAKB48やSKE48のメンバーが「今後は声優を目指す」として、相次いでグループ脱退を表明。かつては裏方の存在だった「声優」が、今いかに人気の職業となっているのかを象徴するような出来事だった。近年、声優業界の盛り上がりは加速しており、アイドル的な売り出し方をするタレントも少なくない。こうした状況を声優業界で働く関係者や一般芸能界はどのように捉えているのだろうか? 過熱する声優ビジネスの裏側を追った。

 ここ数年、テレビ番組や雑誌グラビアなど、水樹奈々平野綾を筆頭に声優のメディア露出が増加しており、現在は空前の声優ブームのただ中にあるといえるだろう。今年3月には国民的アイドルグループともいえるAKB48の仲谷明香とSKE48の秦佐和子が相次いで声優への転身を理由に脱退を発表。各メディアから驚きの声が上がった。

 過去にも、1990年代に『新世紀エヴァンゲリオン』の綾波レイ役で知られる林原めぐみが、歌手として活躍するなど、一過性の声優ブームは度々起こっていた。しかし、現在の声優業界の勢いはその比ではなく、多様なジャンルに活躍の場を広げている。女性声優・南條愛乃がボーカルを務めるユニット・fripSideの新曲『sister’s noise』と、女性向け恋愛ゲームを原作とするアニメ『うたの☆プリンスさまっ♪マジLOVE2000%』に登場するキャラクターソングが、5月20日付のシングルCDチャートで1、2位を獲得。翌週の5月27日付チャートでは、T.M.Revolutionと水樹奈々のコラボレーションシングル『Preserved Roses』が初週に11万5000枚を売り上げ、2位にランクインし、1位を獲得したKAT-TUNに1万7000枚差まで肉薄した。加えて水樹奈々は、2011年12月には2日間にわたる東京ドーム公演を成功させており、彼女に続けとばかりに、若手の声優たちが続々と歌手デビュー。それに伴い、「アニメロサマーライブ」「ANIMAX MUSIX」といった大規模なコンサートまでもが開催される状況だ。

 雑誌メディアにおいても、00年代後半より「週刊プレイボーイ」(集英社)や「少年マガジン」(講談社)など、週刊誌やマンガ誌が女性声優の特集ページやグラビアを掲載し始め、今年に入っても男性ファッション誌「smart」(宝島社)などが声優を特集している。

 近年では露出増大に伴い、ビジュアルを売りにした”アイドル声優”が増加。中には声優業もそこそこに音楽活動がメインの声優も存在する状態だ。その勢いはテレビ番組にも波及し、三ツ矢雄二ら大御所声優やアイドル声優の平野綾らは一般向けのバラエティ番組にも多く出演。11年7月には、『けいおん!』で主役を演じた豊崎愛生らを擁する若手声優ユニット・スフィアを看板にしたバラエティ番組『スフィアクラブ』(日本テレビ/同年12月放送終了)が開始されるなど、若手声優をメインに据えたテレビ番組までもが出てきた。

 こうした状況を受けて、黙っていないのが声優専門ではない、いわゆる一般の芸能事務所だ。オスカーやスターダストといった名だたる芸能事務所が声優を所属させるようになった。

 かつての声優は、舞台役者らが演技の幅を広げるために参加していた向きも強く、「タレント」ではなく「役者」という意識が根強かった。そのため、華やかな芸能界とは一線を引いた裏方産業と認識されていた声優業界だが、今や一般芸能の領域にまでその手を伸ばしつつあるといえるだろう。半面、こうした動きが声優業界に歪みを生み出している部分もある。本稿では、声優業界の現状とその問題点を概観していく。

■スクールビジネスとアイドル売りの弊害

 まず問題とされているのは、容姿売りのアイドル声優が引き起こす演技力低下とキャスティングの寡占状態だ。

 いうまでもなく、声優の芸能化の背景には、声優の名前でアニメDVDやCDといったパッケージ商品の売り上げが左右されるという、現在のオタク市場の存在がある。事実、声優も抱えている一般芸能事務所マネージャーは、「声優は、直接お金を落としてくれる狂信的なオタクファンが付きやすい。だから、採算分岐などの数字計算がしやすく、魅力的といえます」と語る。近年では、声優が出演するイベントなどの参加券をつけるDVDやCDが増加。それらが軒並み大きな売り上げを記録していることから、以前にも増して声優の人気がコンテンツのヒットを左右しているといえるだろう。その点で、キャスティングが重要視されるテレビドラマや映画と似た状況が、オタク業界にも生まれつつあるのだ。

 そのため、本来声優に求められる演技力は二の次で、アイドル的な人気を持つ声優が重用されることとなった。この状況に苦言を呈するベテラン声優も少なくはない。10年には、『美少女戦士セーラームーン』の月野うさぎ役などで知られる三石琴乃が、自身のブログで「キャラが大きい芝居をしてても腹から声が出ない…(中略)この中で一体何人が生き残れるのだろうか~」と、発言しているように、業界内から声優全体の演技力低下に対する懸念がある。と同時に、ファンの間からは「どの作品も同じ声優ばかりがキャスティングされている」と、一部の人気声優による配役の寡占状態への不満・批判の声が上がっている。

 また、声優人気の過熱は新たな問題を生み出した。声優志望者の増加で乱立された声優養成スクールの運営に対し、その是非が問われているのだ。

 オタク市場調査を発表している矢野経済研究所によれば、13年度の声優養成サービス事業の市場規模は、前年度比1・1%増の56億6000万円と堅調にある。

 無論、声優志望者たちのうち、実際にデビューできるのはごくひと握り。大手声優事務所のマウスプロモーション副社長・納谷僚介氏は、講演会において「声優としてデビューした人でも、実際に生き残れて事務所に入れても、それでご飯が食べられないのは9割くらいいるんじゃないですかね」と発言するなど、志望者の大半が夢をあきらめるというシビアな現実を感じさせる。

 だが、こうした有象無象の声優志望者たちが、声優養成所に支払う膨大な額のレッスン料が業界を支えていることも事実。声優業界では、一般の芸能事務所と比べてマネジメント料の割合が低く事務所の取り分が少ないため、所属声優の営業だけで事務所運営を賄うことは困難といわれている。そこで多くの声優事務所は、下部組織として養成所を設けている。そして、集まってきた生徒の授業料を事務所の運営費に充てるという流れが、ほぼ常態化しているのだ。

 そんな中、今年3月末にはアイドル声優ブームの走りともいわれる声優事務所兼制作会社のラムズが活動を停止(5月に破産申請)。声優のマネジメントだけでは賄えない声優事務所の台所事情がうかがい知れる出来事といえるだろう。なお、複数の関係者筋によると、元ラムズ代表取締役・鹿志村聡氏は、同社の活動停止直後から、自身の名前を伏せて、新しく声優のレッスンスクールを設立しているという。夢を追う若者を食い物にしたスクールビジネスの氾濫は、声優業界の闇の一面といえるだろう。

■声優スキャンダルは基本的に自己責任

 そのほか、声優業界が一般芸能に近づくことで噴出した問題として、スキャンダルへの対応が挙げられる。11年に「BUBKA」(白夜書房/掲載当時はコアマガジン)が平野綾のプライベート写真を掲載し、話題となったが、その後写真週刊誌などでも「声優パンチラ」といった記事が散見されるようになった。また、小誌12年10月号では、人気男性声優・小野大輔の既婚報道を掲載したところ、ネットで炎上騒ぎが勃発。これを受けて、小野はイベントで自らの口から「噂は噂、そんな報告ができる時は自らの声で伝えたい」とコメントした。この背景には、芸能界の理屈からすると考えられない状況があったと声優業界関係者は語る。「結婚報道の際、小野は所属事務所のマウスプロモーションから、この件は自分で処理するように言われたそうです。そのため、堂々と否定も肯定もできずに、いまひとつすっきりしないコメントを発することになった」というから驚きだ。

「通常、所属タレントのスキャンダルなどが発覚すると、芸能事務所はファンに向けて公式サイトや文書を通じて公式コメントを発表したり、報道関係者を集めて公式会見の場を設けます。しかし、声優事務所の多くは、あくまで所属声優に仕事を斡旋するという業務提携関係で、業界の慣習としてスキャンダル対応を含めて、声優任せにしています」(前出・マネージャー)

 ゴシップ報道やスキャンダルに晒される機会も多い芸能人を抱える一般芸能事務所は、彼らを守るためのメソッドが確立されているが、長年裏方だった声優業界には、そのようなマニュアルや慣習が存在していないというのだ。

 こうしたスキャンダル対応に限らず、芸能事務所と違い、声優業界では、マネージャーがつきっきりでひとりの声優を見ることはほとんどなく、「『育てる』という意識はどうしても薄くなってしまいがち」(同)。結果、声優の所属事務所に対する帰属意識が低く、芸能界ではタブーとされている移籍・独立が頻発する遠因ともなっている。

 とりわけここ数年は、声優の独立や新事務所の設立という流れが多く見られる。その筆頭が、元アーツビジョンの森川智之と元事務所ぷろだくしょんバオバブの福山潤が独立し、11年に設立したアクセルワンだ。同事務所が設立されると、ぷろだくしょんバオバブから、水島大宙小清水亜美三瓶由布子といったいずれも主演作を持っているランクの声優が移籍。そのほか、12年には老舗事務所アーツビジョンから『銀魂』の沖田総悟役などで知られる鈴村健一が独立、個人事務所を設立した。いうまでもなく、人気声優の移籍・独立は事務所にとっては損失であり、金策に困った声優事務所が前述のスクールビジネスを加速させることも考えられるだろう。

 一般芸能に近づくと同時に、数々の問題点が噴出してきた声優業界。当特集では、この声優ブームを、声優事務所マネージャーや声優たちの匿名座談会、某アイドルグループを脱退しアニソン歌手を目指して再デビューを果たした松下唯のインタビューなどを通して、多角的に検証していく。アニメ・声優雑誌が語らない業界の実情を明らかにしていこう。

(文/菅 桂真)

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