「人は死ぬし、死んだ後には何もない」クリスチャンになれなかった山本直樹の信念

2013.10.10

【ハピズム】

都条例で「不健全図書」指定を受けた
『堀田』(太田出版)の3巻

(前編はこちら)

――前編は、誰もがいつ踏み外してもおかしくない「日常」についてお話いただきましたが、『堀田』【1】はかなり日常を踏み外している感じがしますよね。

山本 『堀田』は、どこまでデタラメができるのかを実験してみたんです。でも、なかなか難しいですね。人はあまり無意味には耐えられないと思いました。

――2巻から3巻にかけて描かれる、高校生同士のエスカレートする性行為を読んでいると、山本先生は“物語の人”なんだなあと感じました。

山本 そうですね。大学時代、授業はだいたいつまらなかったけれど、宗教研究という授業だけは面白かったんです。田島照久さんという、中世のキリスト教神秘主義【註1】の研究をしている先生で、錬金術【註2】やタロットやカバラについて、歴史的視点で教えてくれました。例えば、心理学者のユングも錬金術について書いていて、その材料は人間の心の比喩だというんです。錬金術は硬い/柔らかいっていう全く逆の材料を一緒に錬成するんですが、それは相対する感情や宗教を混ぜ合わせることで新しい何か生みだすという物語の例えになっているんです。また、タロットにも、昔からある普遍的な物語のパターンが込められているそうです。そういうものを知っておくとマンガに使えるだろうと思ってたので、宗教研究の授業は面白く受けられましたね。

 やっぱり、そうやって面白い物語を描きたくてマンガ家になったから、物語の意味からは逃れられないんだと思います。その中でどれだけ端っこにいけるのかとか、どれだけ遊べるかとか、今はそんなことを考えながらやっていますね。

――『レッド』はノンフィクションですが、今まで以上に強い物語性がありますよね。そもそも連合赤軍に興味を持ったきっかけはなんだったんですか?

山本 オウムの一連の騒動があった後、何か似たような事件が昔あったなと思ったんです。それで、思い当たった人たちの本をむさぼるように読みました。東アジア反日武装戦線の人たちの本や、立花隆の『中核VS革マル』(講談社文庫)を読んだら面白くて。特に連合赤軍事件については、前半は犯罪青春モノ、後半は山岳残酷モノという、その落差がすごかった。これをぜひマンガにしてみたいと思ったんです。基本的に僕は、失敗した人たちの話が好きなんですね。成功した人たちの成功談は、読んでいて癪だから(笑)。

――連動赤軍とオウム真理教との共通性を、どんなところに感じたんですか?

山本 当時の学生運動は、「大学生はデモに行くのが当たり前」という層と、「そういうのは絶対に嫌だ」という層の二種類しかいなかった。僕らの世代もオカルトブームで、『ノストラダムスの大予言』を読んだりとかしてユリ・ゲラーにハマった層と、僕みたいにそれを冷めた目で見ていた層がいた。似ているっちゃ似ているよね。そんな中で、極端な人たちが集まって、どんどん先鋭化してどん詰まりになったのが、浅間山荘事件でありオウム真理教だった。組織というのは、先鋭化するとイケイケドンドンの人しか残らなくなるんですよ。「これは違うんじゃないか」と考えるような人は、途中で抜けてしまう。そうやって止める人がいなくなるから、なおさら暴走してしまうんでしょうね。

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