初音ミクの画像は勝手に使ってよい? 『初音ミク』の販売元のクリプトン社に聞く

製品の発売前には全く想像もしていなかったことですが、音楽を制作する方のためのツールとして考えていた『初音ミク』が、さまざまな分野のクリエイターが集まって連鎖反応的に新たな創作を生み出すハブとして機能し始めたのです。それによって、次々に魅力的な音楽や画像、映像が生み出され、多くの方に楽しまれ、それを見た別のクリエイターが参入してくる。この正のフィードバックによって、『初音ミク』もまた同時に、より大きな支持を得ることができたのです。
PCLの制定に際しては、『初音ミク』を取り巻くこのうねりが背景としてございました。

Q2: PCLの設立の趣旨とその目的をご教示いただけますでしょうか。

先に申し上げたように、『初音ミク』の隆盛は、ファンの方による二次創作なしにはありえないものでした。そういたしますと、二次創作に対しては、弊社としては「黙認」することでは足りず、行なっていただくことを公的に表明することが、ファンの皆様との関係においてフェアなものとなると考えました。
一方で、『初音ミク』は弊社の所有する知的財産であり、また、ブランドでもございます。その要素を勘案しながら、ファンの皆様と弊社の双方の利益をそれぞれに最大化できるバランスを見極めたうえで行う必要もございました。

弊社では2007年の12月に、「キャラクター画像をモチーフにした二次創作画像について、非営利目的で公序良俗に反しなければ利用を制限しない」という非常に簡単な内容のガイドラインを公開いたしました。このガイドラインは、二次創作のイラストのみを射程に入れた暫定的なものでございましたので、その他の表現形式については、明示的な規程とはなっておりませんでした。
そこで、2008年に入ってからは、表現形式全般を射程に入れたキャラクターライセンスの制定に取り組みました。この過程では

・キャラクターとはそもそも法的にどのような概念であるのか、裁判例や学説の調査
・キャラクタービジネスにおける「ライセンス」とはどのように行われることが多いのか、ライセンス契約の実際に関する調査
・著作物の利用を促進するライセンスにはどのようなものがあるのか、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスをはじめとするライセンスに関する調査
・二次創作の実態とはどのようなもので、どのような内容にすれば最も双方にとって有益なバランスとなるのか、二次創作文化に関する調査
などを進めていきました。
 そうした調査研究を重ね、知財法・エンタテイメント契約を専門とする弁護士の監修を経た上で、2009年7月にPCLを公開いたしました。

筆者作成

Q3: 最高裁で否定されている「キャラクター権」(「ポパイ・ネクタイ事件(最判平9・7・17)」)という概念を敢えて導入した理由をご教示いただけますでしょうか。
Q4:PCLで、「キャラクター権」を規定したことに関する世間の反応(法曹界も含む)をご教示いただけますでしょうか。
Q5:PCLの法律解釈論としては、(a)著作権法27条、28条の、実施権許諾とみなすものであるのか、(b)著作権法とは離れた完全な私的ライセンスとみなすのか、(c)その他 であるのかをご教示いただけますでしょうか。

「ピアプロ・キャラクター・ライセンス」という名称から、あたかも「キャラクター権」を創出したかのような理解がされることもままございますが、PCLはあくまでも著作権に基づくもの、弊社が製品パッケージに描いたキャラクターの原画像に関する、不特定多数の方への利用許諾ということになります。したがって、最も厳密な意味においては、著作権法27条28条の実施権許諾ということになります。
これは、PCLの第1条第1項第1号で、「キャラクター」を「絵画の著作物」として定義し、それに依拠して二次創作を制作することを第3条で許諾する、という構成によって表現しております。
「キャラクターライセンス」という名称を付しましたのは、二次創作においては、「著作権法上における著作物の利用」をも含む「抽象的概念たるキャラクターの利用」と表現するのがむしろ適当であるように弊社として見えたことにございます。
一方で、これらについてことさら厳格にその境界線を探り定義することには格別の利益も見いだせませんでしたため、より利用者の皆様の実感に沿うであろうと思われた、「キャラクターのライセンス」という名称を付したものにすぎません。

Q8:創作者は、PCLの精神と内容を正しく理解しているかどうか、主観で結構ですのでご教示いただけますでしょうか。

さまざまな尺度でとらえることが可能だとは思いますが、「『初音ミク』は安心して二次創作ができるコンテンツである」とユーザーの方に広くご認識をいただいている現状につきましては、たいへんありがたいことと感謝申し上げております。

Q9:PCLで、「キャラクター権」という新権利の創成に寄与していきたいというご希望を、お持ちでいらっしゃいますでしょうか。

ライセンス契約を担当する者としての立場で言えば、「キャラクター権」があったほうがいいと思ったことが皆無、ということはございません。
ただ、現状に鑑みる限りにおきましては、「キャラクター権」という新たな権利を創設しなければ解決できない課題がある、という認識もまたございません。

<江端の追加質問>
例えば、絵画「初音ミク」の「薄い本」的利用は、PCL第3条2項5号で担保する、という理解で良いでしょうか。「キャラクター権」が認められれば、そのような利用をキャラクターの創作者の権利行使によって、差止できるという効果などは期待されていませんでしょうか。

<クリプトン社からのご回答>
そのような建てつけになっております。また、そのような利用を差し止めるには、キャラクター権に頼らずとも著作権で十分と考えております。
(文=江端智一 BJ2013.4.16既出)

※本記事へのコメントは、筆者・江端氏HP上の専用コーナーへお寄せください。

※後編へ続く。

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