『巨悪学園』悪ふざけでAKB48を徹底的にいじり倒す漫画!講談社的に大丈夫か?

 今、一番頭のおかしいマンガ雑誌はどれか? そう聞かれたら、しばらくはいろいろ考えるけれど、結局『「ネメシス」(講談社)だ』と答えると思う。

「ネメシス」は、キワキワすぎる実在タレントネタをぶち込んでくる風刺系ギャグ『ママはチャイドル!!』や、独特の絵柄で近未来の相撲SFという異端ジャンルを切り開いた『五大湖フルバースト』、童貞×ゾンビというB級そろい踏みの怪作『ブロードウェイ・オブ・ザ・デッド 女ンビ ~童貞SOS~』など、ほかの雑誌ではまず間違いなく出てこないであろう作品を数多く生んでいる。

 そんななかでも、「いよいよキてるな」というのが、9月に最新2巻が発売された「巨悪学園」(講談社/長沢克泰うどん)だ。ストーリーは、金と権力で社会を裏から操る巨悪たちが集まる高校・私立巨悪学園に政府の特命を受けた新命龍明が潜入調査をかけるという頭の悪いものなのだが、まぁ、これがすごい。ヒゲを蓄え、黒服に囲まれて車いすに乗って生活する老人ふうの御前崎征士郎くんを始め、原哲夫のアシスタント経験のあるマンガ家・長沢克泰の手によるゴリゴリの劇画調で描かれた、悪の首領(ドン)といったキャラクターたちが次々と登場するが、実は彼らは全員16歳。誰がどう見ても老人であり、すでに成人病(生活習慣病)までわずらっているが、あくまで16歳。

 この時点ですでに強烈なバカさと出オチ感を放っているのだが、中身はさらにダイナミックにバカで、校内で死者440名を出す合戦を繰り広げたり、校内運動会をオリンピックスタジアムで行い、巨額のスポーツ博打に興じてみたりと、毎回破天荒な巨悪ぶりを見せつけてくれる。

 しかし、「巨悪学園」の真に極悪なところは物語ではない。もちろん内容も「談合・収賄・独占」と書いて「ゆうじょう・どりょく・しょうり」と読ませる『週刊少年ジャンプ』にケンカを売っているとしか思えないクレイジーなキャッチフレーズどおり、権力悪全開なのだが、それ以上に作品そのものの恐れを知らぬ悪漢ぶりが強烈なのだ。

 たとえば、本作の単行本カバーは裏側までカラーでイラストが入っているのだが、そちらではマザー・テレサやアインシュタイン、坂本龍馬といった偉人たちの名前がズラリと入り、「世界中の偉人(の守護霊に)推薦」という、どこかで聞いたことのあるひどい煽りを入れ込んでいる。

 そもそも714円と青年誌サイズの単行本としては比較的普通の価格にもかかわらず、60ページ以上のおまけを収録し、合計280ページ以上という分厚いコミックになっているあたり、講談社という大手出版社の金の力をまざまざと見せつけている。その上、カバー両面カラーとか、中小出版社が見たら脳溢血を起こしかねない贅沢ぶりだ。「巨悪学園」にふさわしい金の力を感じさせる。でも、たぶん編集部は営業部ほかに原価高すぎで怒られてる(予想)。

 そして、数多くのエピソードの中で特に圧巻なのが、2巻収録の第13話「死のステルスマーケティング」。ロツア連邦から来たアイドルユニット「KGB48H」までは笑っていられたのだが、そのプロデューサーの名前が「萩元康」こと「モトヤスキー・オニャンコフ」であるあたりで背筋が凍る。「これ、(講談社的に)大丈夫なのか?」と思っていると、このKGB48Hがスパイとして体を使ってハニートラップを仕掛けているとか言い始める。とてもほかの雑誌でAKB48とタイアップしたマンガを数多く連載している出版社のやることとは思えない恐ろしさ。「さすがにオニャンコフに怒られるぞ……!」と震えながら読んでいると、枠外に「※実在の人物・出来事とは一切関係ありません」というおなじみの注釈が入っていたのだが、そのあとがすごい。「風刺とかですらもありません」と書いているのだ。

 この身も蓋もない宣言のインパクトは強烈だ。実在の人物をいじるギャグは、ギリギリながらどこかで「風刺である」という建前があって成立している。社会風刺であるから許されているという部分がある。「風刺ですらない」というのは、「揶揄してないからね! マジでマジで!」という弁明であると同時に、「でも、これ完全に“悪ふざけ”だから」と高らかに宣言しているということでもあるのだ。「巨悪学園」の“極悪ぶり”というのは、まさにこの宣言に象徴されているといっていいだろう。

 出オチかと思いきや、毎回毎回攻めすぎな内容で読むたびに恐ろしい思いをさせてくれる「巨悪学園」。おそらくこの巨悪を倒せるのは、全編にわたって絵柄を(けっこうハイレベルで)再現されている池上遼一先生しかいないと思う。池上先生ほか、誰かが本気で怒る前に読んでおいたほうがいい、捨て身の巨悪ギャグだ。
(文/小林聖)

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