芸能評論家が紐解く! “アニメと芸能界”の交差点

『アイマス』の原点『さすらいの太陽』 藤圭子の生き様がアニメ界にもたらしたもの

2013.10.10

――芸能人がアニメやマンガへの愛を語ることも珍しくなくなった現代。芸能人の声優起用やタレント声優のメディア進出など、アニメ業界の裾野はかくも広がっている。しかし、かねてよりアニメと芸能界は陰に陽に深く結びついていた。そんな“アニメと芸能界”のつながりを、アニメにも造詣の深い芸能評論家・三杉武が紐解いていく――。

『さすらいの太陽 DVD-BOX』( コロムビアミュージックエンタテインメント)

 今年8月22日、歌手の藤圭子さんがマンションから飛び降り自殺し、62歳の若さで亡くなった。

 藤さんといえば、昭和を代表する人気歌手として「女のブルース」や「圭子の夢は夜ひらく」など数々のヒット曲を世に放ち、若い世代には宇多田ヒカルの母親としても知られているが、個人的には1971年に放送されたアニメ『さすらいの太陽』の主人公・峰のぞみのモデルとしても印象深い。

 元々『さすらいの太陽』は、『ウルトラマン』や『宇宙戦艦ヤマト』の脚本でも知られる藤川圭介氏が原作、すずき真弓氏が作画を担当し、70~71年に「少女コミック」(小学館)で連載された少女マンガ。71年から放送されたアニメ版は、“日本で初めて芸能界を描いたアニメ”としても知られている。いわば『魔法の天使クリィミーマミ』(83年~84年)や『アイドル伝説えり子』(89年~90年)、近年では『THE IDOLM@STER』(2011年)といった“アイドルアニメ”の礎となった作品と言ってもいいだろう。

 ちなみに、『機動戦士ガンダム』シリーズでおなじみの富野由悠季【(※当時は斧谷喜幸名義)氏が演出、安彦良和氏がコスチュームデザインなどに携わっているのも興味深い。

 スリーグレイセスの歌うアニメ版のオ―プニングテーマ「さすらいの太陽」を初めて聴いた時は、子供心に「なんて暗い歌だろう」と思う反面、心にしみ入る歌詞とメロディーがなかなか耳から離れなかった。とくに、後半部分の「さすらいながら 傷つきながら 明日の太陽を探しているの」というフレーズが印象的だった。後に調べたところ、作詞は野口五郎の「私鉄沿線」やゴダイゴの「ガンダーラ」、GAROの「学生街の喫茶店」などで知られる山上路夫氏が、作曲を坂本九の「見上げてごらん夜の星を」や青い三角定規の「太陽がくれた季節」を生んだいずみたく氏が手掛けていることを知り、妙に納得したものである。

 オープニングテーマに負けず劣らず、アニメ版のストーリーもなんとも切なくなる話だ。

 本来は大財閥の令嬢として産まれながら、看護婦によって病院ですり替えられ、下町の貧しい屋台のおでん屋の娘として育った峰のぞみが、貧しいながらに歌手になりたいという夢を抱く。そして、酒場で酔客を相手に“流し”をしたり、赤ん坊の時にすり替えられた相手で大財閥の令嬢となった香田美紀の付き人となり嫌がらせを受けたり、日本中を放浪したりと苦労を重ねて、真の歌手を目指すというもの。

 ハッピーエンドを迎えなければ、まったく救いようのない話ではあるが、この主人公の峰のぞみのモデルとなったのが、当時絶大な人気を集めていた流行歌手の藤さんだった。藤さんも、浪曲歌手の父と三味線奏者の母の間に生まれ、貧しい生活を支えるために高校進学を断念し、両親とともに全国を旅しながら歌い続け、17歳の時に「さっぽろ雪祭り」で歌う姿が音楽関係者の目に留まり、歌手デビューを果たす。アニメ版の作中には、夜の街で“流し”をする峰のぞみが大衆居酒屋でギターを片手に、藤さんのヒット曲「圭子の夢は夜ひらく」を見事に歌い上げる場面もある。

 天才歌手として、歌姫の母として芸能界に金字塔を打ち立て、そしてアニメ界にも多大な貢献をもたらした藤さん。今はただ、天国で安らかな日々を過ごしていることを祈るばかりだ。
(文/三杉武)

三杉武(みすぎ・たけし)
全国紙の記者を経てフリーに転身後、芸能評論家として週刊誌を中心に独自の視点から芸能ニュースの解説やコメントを手掛けている。アイドルやアニメ、TRPG、プロレスなどのサブカルチャーにも造詣が深い。2012年には「AKB48総選挙2012公式ガイドブック」にて、経済評論家・森永卓郎氏やマンガ家・小林よしのり氏らとともに“10論客”として「第4回AKB48選抜総選挙」の予想および解説を担当。翌2013年にも「AKB48総選挙2013公式ガイドブック」(共に講談社)にて、“8論客”として、「第5回AKB48選抜総選挙」の予想および解説を務めた。

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