あの名作マンガはなぜ買えない? 創作者に“ものすごい”力を許す著作権の常識

【Business Journalより】

画像は筆者提供

 こんにちは。江端智一です。  私が小学生から中学生の頃の少年マンガといえば、仲の悪い学校の番長どうしが、河原で喧嘩をして、最後にはお互いに笑い合って無二の親友になる、という「こいつらの頭の中には、脳が詰まっていないのか」というくらい、バカバカしい内容でした。  そして少女漫画についても、同様、「実はあなたのことが好きだったの」「僕もだよ」というエンディングで終わるというコンセプトのバリエーションの使い回しと思っていました。 「マンガを読めば、バカになる」ーーこれは、当時の子供を持つ保護者たちの共通認識でした。当時の私ですらも、「マンガなんぞ読んでいたら、確かにバカになるだろうなー」と漠然と思っていました。読んでいましたけど……。  そんな時代にあって、「キャンディ」との出会いは、一言で言って、衝撃でした。 『キャンディ・キャンディ』という少女マンガに出会ったのは、中学校2年生の時だったと思います。  女子生徒に頼み込んで貸してもらいました。中学男子生徒が女子生徒に「『キャンディ・キャンディ』を貸してほしい」と申し出るということは、その当時、エロ本を貸し回す男子生徒などとは比較にならないくらい、勇気ある行為であったと思います。  こうやって少女マンガを貸してもらうために、女子生徒に頭を下げられた私って、「もう本当に、漢(おとこ)」と、自分で自分に惚れてしてしまいそうでした。まあ、それはさておき。  キャンディキャンディとは、孤児院「ポニーの家」で育った主人公が、苦難を乗り越え、強く生きていくという、王道の中の王道の少女漫画です。  ・舞台は20世紀初頭のイギリスおよびアメリカ中西部  ・その時代の詳細な背景(第一次世界大戦時の世情不安)  ・当時の価値観(資本主義社会初頭時の貧困の差や階級的矛盾)  ・思考形態(初期アメリカ型キリスト教世界観) を踏まえた上での、その壮大な世界観に圧倒されたものです。  これだけの背景を盛り込んだ上で、主要登場人物だけでも39人が登場し、それぞれのキャラクターが確固とした価値観を持った尖ったキャラクターで魅了し、バッドエンドとハッピーエンドを繰り返しながら、物語の初頭で提示されたテーゼ「『丘の上の王子さま』は誰か?」に対して、終盤に向けて収束していくその見事なストーリー展開は、少女漫画の金字塔であり、私の中の「少女漫画の圧倒的優位」の思いを確固たるものにしました。  欧州で放映された際には「日本人に、このような西洋風のストーリーが創作されるわけがない」と決めつけられ、韓国ドラマ『冬のソナタ』のストーリーにも影響を与えたともいわれているそうです。  しかし、今、この漫画を購入したり、放送を見たりすることはできません。なぜなら、原作・原案者の水木杏子さん、作画者のいがらしゆみこさん(以下、「原作者の水木さん」「漫画家のいがらしさん」と記す)の間で、著作権の帰属をめぐるトラブルが発生しているためです。  試しに、キャンディキャンディのコミックス全巻セットの中古本を調べてみたところ、現在、Amazonプライム特典で、9,800円の値段がついていました。間違いなく、我が国を代表するであろう、名作コンテンツであるキャンディキャンディが、なぜこのようなことになってしまったのでしょうか?

●創作者の持つ絶大な権利


 まず、このキャンディキャンディのお話をする前に、著作権について書かせていただきます。  意外と思われるかもしれませんが、「著作権」という名前の権利は、実は存在しません。著作権とは、複製権(著作権法第21条)、上映権および演奏権(同第22条)から、二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(同第28条)、その他のたくさんの「権利の束」のことを、上位概念で説明する用語です。

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