アダルト系出版社に出頭要請 エロマンガをめぐり警視庁に新たな動き

2013.09.12

『戦後エロマンガ史』(青林工藝舎)

 新たな逮捕者も出るのか? 今年7月に起きたコアマガジンの編集部長ら3人が、ワイセツ図画頒布容疑で逮捕された事件に続き、警視庁がさらに出版社各社に対し、本庁への出頭を要求していることが明らかになった。

 出版業界の消息筋によれば、9月時点で呼び出しを受けているのは3社。いずれも、9月下旬に日付けを指定され、呼び出しを受けているという。呼び出しに際し、警視庁側からは「成年向けコミックスの内容や修正について、お話をしたい」との発言もあったという。ただ、アダルト系出版社幹部は「各社ともまだ話し合いの前なので詳細については、わからない」と語る。漠然と成年向けマークのついた、エロマンガ雑誌・単行本に対して規制を強める意図があるのではないかとも、考えられているが、警視庁の目的は判然としていない。

 エロマンガの修正をめぐっては、警視庁が成年向けマークのついたエロマンガ雑誌・単行本に対して、従来よりも厳しい修正を要求してきているとされる。具体的には、「カリ、クリ、接合部」の三カ所ではなく性器部分を完全に修正するものだといわれている。従来、成年マークのついた雑誌・単行本では前者の三カ所を修正すればよいというのが半ば常識。ゆえに、警視庁は規制を強化していると見てよい。

 そもそも、ワイセツ罪とは「なにをもってワイセツとするのか」の基準が極めて曖昧なものである。エロマンガがワイセツか否かをめぐって争われた事件としては、2002年にマンガ家本人や出版社社長らが逮捕された松文館裁判がある。この裁判は、最高裁まで争った結果有罪になったが、裁判の過程では検察側が「絵が上手すぎるから有罪」だと主張したり、地裁では裁判官が該当作品の修正が小さすぎる(修正は一般的なものであり、この場合、市場に出回っている雑誌や単行本のほとんどが違法になると考えられる)といった判断を下したりして、改めてワイセツ罪のおかしさを世間に知らしめた。

 このたび、2020年のオリンピック・パラリンピックの東京開催が決定したことで、開催に向けて街の”浄化”が行われ、エロは弾圧の対象になるのではないかとの危惧もある。強大な権力に対して正面から立ち向かうのは、一筋縄ではいかない。しかし、どんなに規制を強制されてもエロいものを見たいという欲望を消すことはできない。マンガ家たちの間では「萎縮効果」や「自己検閲」といった言葉で、弾圧される恐れがあると表現ができなくなってしまうとの発言をする人も多い。しかし、権力の弾圧に対しては、裏をかき、網の目をくぐり抜けながらでも表現をしていく意思も重要だ。どんなに苛烈な弾圧であっても、真に民衆の側にあるものであれば、権力が消し去ることはできないからだ。

 ともあれ、出版社やマンガ家だけでなく読者の側にも漠然とした情報で危惧を抱くよりも、やられたらやりかえすぐらいの強烈な意思を持ってもらいたいもの。前出の松文館裁判の地裁判決の時に、筆者は「不当判決」を叫んで退廷になったけど、今なら、それくらいはみんなやってくれるよね?
(取材・文=昼間 たかし)

編集部オススメ記事

注目のインタビュー記事

人気記事ランキング

PICK UP ギャラリー