「大島優子演じる女編集がむかつく」草なぎ剛主演の手塚治虫ドラマに異論噴出!?

2013.09.27

関西テレビ放送の『神様のベレー帽~手塚治虫のブラック・ジャック創作秘話~』公式ホームページより。

 9月24日、関西テレビ・フジテレビ系で特別ドラマ『関西テレビ放送 開局55周年記念ドラマ 神様のベレー帽~手塚治虫ブラック・ジャック創作秘話~』が放送された。SMAPの草なぎ剛がマンガ家の手塚治虫を、AKB48大島優子が女性マンガ編集者を演じることもあり、放送前から話題となっていた。

 このドラマは、2012年に『このマンガがすごい!』(宝島社)オトコ編第1位を受賞した、宮崎克と吉本浩二によるマンガ『ブラック・ジャック創作秘話~手塚治虫の仕事現場から~』(秋田書店)を原作としているが、そのストーリーはまったく異なる。ドラマのストーリーは大島演じる、手塚治虫のマンガを読んだこともない編集者が、過去にタイムスリップして手塚治虫の担当編集となり奮闘するというものである。原作には登場しない、大島が演じる女性編集者については放送中からマンガ家や編集者からツイッターで不満のツイートが飛び交った。

 マンガ家の平野耕太は「見たいのはBJ創作秘話であって、クソ女編集の右往左往じゃねえ」とツイート。マンガ評論家としても著名なマンガ家・いしかわじゅんは「この若い女の編集者、形通りの演技するなあ。原稿見る時にも、コマを追ってないし。ページの一ヶ所見てるだけ」と不満をぶつけた。

 草なぎが演じる手塚治虫に加えて、「週刊少年チャンピオン」(秋田書店)の名編集長・壁村耐三を演じたのは佐藤浩市。演技力に定評のある2人に挟まれて大島の演技にアラが目立つのは、仕方がないだろう。おまけに、大島の演じる女性編集者は、秋田書店の編集者なのに手塚治虫のマンガを読んだこともない挙げ句に、マンガのデキはマンガ家の責任だと考えている、かなり痛い設定である。

『ヤングキングアワーズ』(少年画報社)編集長の筆谷芳行は「とにかくこの女性編集、なんかむかつく」「昨日のドラマ、見返してみた。ビミョーな気持ちになられた業界スジの方々は多いと思うけど、一般的にはいいのかなと思ったり。ただ、奇人ぶりばかりに焦点あてて、作品の凄さにちっともいかないのがなんとも。作品あってのマンガ家でしょうに」とツイートを放った。

 さらに、手塚治虫の娘・手塚るみ子は「大島優子をfeatすればするほど手塚治虫も壁村編集長もインパクトが無くなり存在感がボケるなぁ…」とツイート。しかし、その後に「大島優子さんには不満どころかドラマに出演して下さって感謝してますよ。おそらく事前に手塚作品を読んだり色々と勉強下さったことと思いますし。役とはいえ手塚番になれたのは羨ましいと思う手塚ファンも多いのではないでしょうか」と「大人の感想」を述べている。

 多くの業界関係者や手塚ファンをビミョーな気分にさせた、このドラマ。とはいえ、再現度の高さで評価すべき点もあった。それが、手塚治虫の使っていた原稿用紙である。放送中、ネット上では「使っている原稿用紙が模造紙みたい」「薄すぎる」といった批判もあったが、実は手塚の使っていた原稿用紙は薄かったのである。この史実を知るファンの中には、YouTubeなどにアップされている生前の手塚の執筆風景をリンクして、再現度の高さを評価している。

 もうひとつ、当時を知る人々の間で評価が分かれたのが、佐藤演じる壁村編集長のキャラ設定である。壁村編集長は、現在でも出版業界で数々の喧嘩伝説が語られる人物だ。ある時は喧嘩をして腹を刺されたが、セロテープで傷口をとめて編集部に戻って校了まで作業を続けたという真偽不明の伝説も。藤子不二雄Aの『愛…しりそめし頃に……』(小学館)では、壁村を模した壁岩という編集者が登場し、ナイフを持ったチンピラを倒すシーンが描かれている。『ブラック・ジャック創作秘話』でも、ほとんどヤクザとしか思えない壁村の怖さが何度も描かれている。それに比べると佐藤が演じる壁村は優しすぎるというわけである。とはいえ、2時間ドラマで壁村喧嘩伝説を再現するのはちょっと難しいところ。ここは、連ドラ化して、きちんと描いてほしいと多くのファンは願っているのではなかろうか。

 そうした中、当時「週刊少年チャンピオン」で『ふたりと5人』(共に秋田書店)を連載していた、吾妻ひでおは、「あのバー良い思いで無いなあ・・・。」「佐藤浩市だんだん本物の壁村さんに見えてきた、怖い」と、当時の恐怖をツイート。さらに壁村編集長が「なにがなんでも原稿を取ってこい!」と檄を飛ばす場面に対し、「嘘です、私代原描かされました」と、手塚氏が原稿を落とした場合の事前策を密かに進めていたということを明かす暴露ツイートまで!

 吾妻は2009年にコアマガジンから出版された『誰も知らない人気アニメ&マンガの謎』内に描き下ろした「夢見る宝石 漫画家ドナドナ物語」の中で、「うちは山●さんと鴨●君で売れてるから吾妻さんはもういいやごくろうさん」と言われ「この時編集長だった●●●●【引用者注:壁村編集長のこと】さんの絞り滓を見るような冷たい目今でも忘れません●●●●殺す! 注 ●●●●さんは亡くなりました」と、いまだに壁村に対する怒りを抱えている様子。ドラマを見ながら、過去のトラウマをえぐられたようだ。

 あくまでテレビドラマとして一般ウケを重視したために、関係者やファンからは不満もあった、このドラマ。しかし、そうした面も含めてツイッターを中心に盛り上がっていたのだから、製作側にしてみればしてやったりだったのではなかろうか。

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