『ふしぎ遊戯』は厳しい現実と戦う比喩だった?渡瀬悠宇が語る【後編】

(前編はこちら)

『ふしぎ遊戯』は厳しい現実と戦う比喩だった?渡瀬悠宇が語る【後編】の画像1『ふしぎ遊戯 玄武開伝』(小学館)より/(c)渡瀬悠宇/小学館

――前編では、創価学会で得たものが渡瀬先生の作品に影響を与えているというお話がありましが、先生にとって、学会の池田名誉会長はどういった存在なんでしょうか?

渡瀬 先生は「教祖」ではなく「師匠」です。困った時や苦しい時に、先生の本を読んで「よし、頑張ろう」って思えるんです。例えば、日蓮大聖人の教え【註1】によれば、人間の命の中には十界という10個の世界があります。その中で仏界だけはなかなか出すことができないんですよ。わかりやすく言うと、鏡に自分を映した時、曇っていると自分の姿は映りませんよね。でも、その鏡に映っているのが、本当の自分なんです。だから、お題目【註2】を唱えることで、その鏡を磨いていくんですよ。鏡を磨く、とは自分の弱い生命を変革していくこと。「仏」とは「生命」のことです。どこかよそにいるのでなく、あくまで「自分で決意、努力」して、自分を変革する。それによって、他の人にも「生きる力」を与えていける、それが「仏界」の生命。すべての人の中にある力です。それは困難にも負けない勇気。前向きな心。先生からは、そうした「人生の哲学」について学び、私たち弟子への細やかな激励、また世界中の識者から求められ、対談、友好される姿を通して、「一人の人間を大切にする姿勢」も身をもって教えてくださっています。悩みも越えられてきたのは、この「人生の師匠」の存在があるからです。

――池田名誉会長が書かれた『人間革命』【1】という本を創価学会の方は必ず読まれるそうですが、『アラタカンガタリ』の主人公の名前が「革」なのも、それを意識されているんですか?

渡瀬 そうですね。自分がまだその成長の渦中にあるのもあり……この一文字がピンときました。それと名字が「日ノ原」なのは日本のイメージです。今の日本を見た時に、これから国を担う世代の子どもたちへの期待を込めました。少年誌の読者に対して、「君たちがこの国を変えていくんだ、大人を見てあきらめちゃいけない」っていうメッセージです。今、子どもたちを取り巻く環境は、いろいろな意味でよくない。情報は氾濫しているし、犯罪に巻き込まれることも少なくない。私は無力な一介のマンガ家ですけど、せめて自分の作品を読んだ子どもたちが、この主人公のように頑張ろうと、奮い立ってほしいと思っています。

――先生の作品で特徴的なのが、『ふしぎ遊戯 玄武開伝』(以下『玄武開伝』)【2】ソルエンのような、人間の死【註3】を描いていることです。死を描くことを避けたり、死を“お涙頂戴”のネタに使う作品が多い中、先生の描く死の捉え方は、かなり違うように感じます。

渡瀬 キャラクターが散っていくシーンというのは、すべてに意味を持たせたいと思っています。私は、人はみんな死ぬんだから、重要なのは死に方じゃなくて生き様だなと思っているんです。学会では「臨終勝負」って言われているんですが、今どれだけお金を稼いで栄華を誇っていても、死んだら持っていけない、だから臨終の時に、それまでの生き様が清算されてしまうんだよ、という考え方です。キャラクターの死はそこで殺したいんじゃなくて、生きていく人たちに悲しみも与えるけど力も与える、そういう描き方をしていきたい。うちのアシスタントさんが幼稚園の頃に、アニメの『ふしぎ遊戯』での柳宿が死ぬシーンを見たそうなんです。「ガーン」ってなったけど、戻ってこない死というものを感じたと言ってくれました。ちゃんとした死を描けば、人の死にはどんな意味があるのかということを、子どもたちにも体感させることができるんだと思っています。

■『寄生獣』のように、いつでも感動させるマンガを!

――少年少女向け雑誌で描かれることが多い先生の作品ですが、大人になってから『ふしぎ遊戯』を読み返してみると、そういった人の死だけではなく、先ほどお話に出た受験戦争などの現実に起きている問題など、こんなに深いテーマを描かれていたんだと驚かされます。

渡瀬 私の場合、普遍的なテーマを描いているからかもしれませんね。基本的には、私は作品を描くことで、自分がなんのために生きているのかを問われていると思っています。読者さんから「革の行動に、自分も奮い立たされます」とか「(『玄武開伝』の主人公)多喜子を見習って頑張ります!」とか、あとは「不登校だったけど学校に行こうと思った」とか言われることがあるんですが、そういうことに(自分が生きている)意味があるんだと思うんです。自分のためにマンガを描いているわけではなくて、多くの人にメッセージが届いてほしいと思っています。

 先日も『アラタ』のストーリーを震災体験に結びつけて考えてくれた感想をもらって、「それそれ! そうなの!」と思いました。『アラタ』は、読む人によって感想がまったく違うんです。それは、『アラタ』が物語全体を通じて、敵対する相手とぶつかって、相手を理解することで自分をわかっていく……という構成になっているから。実はこの構成って、作品と読者の関係と同じなんですよね。読者さんが作品と向き合うと、自分自身のことがわかってくる。震災に結びつけた感想が出てきたのも、その人がつらい経験や悩みにちゃんと向き合っているからだと思うんです。『アラタ』は、その人の内面を映す、鏡のような作品になるかもしれないですね。

――怖くて先生には感想を言えないですね(笑)。ちなみに、ご自身が描かれたもの以外で、お好きなマンガ作品はありますか?

渡瀬 あんまりたくさんは読んでいないですが……いちばん感情に訴えかけてきた作品は、岩明均先生の『寄生獣』(講談社)でした。読み通すと、5回は泣きますね。テーマ性や見せ方も本当にうまい。あとは楳図かずお先生の『漂流教室』(小学館)。この2作品はすごいですね。両方とも最後にちゃんと感動させてくれるんです。私もマンガを描く時は、どんなことがあっても感動させたい、感動させてやるって思っています。

――最後に、読者さんへメッセージをお願いします。

渡瀬 時たま、アンチ的な意見も耳に入ってきますが(笑)、こんな時代だから、そういう人たちも含めて、せめて私の作品を読んでくれている読者さんには、まっすぐに生きていってほしいって願っています。本当にみんな幸せでいてほしい。その役に立ちたいです。読者さんから「先生の作品は、私の人格形成の一部です」って言われたことがあるんです。うぬぼれとかじゃなく、その通りだなと思いました。頭の柔らかい小中学生のころはマンガが及ぼす影響は本当にすごいから、いい加減な姿勢で描くことはできません。自分の仕事は責任重大なんだと思って、これからも描いていきます。
(構成/大熊 信)

■渡瀬悠宇(わたせ・ゆう)
大阪府生まれ。1989年『パジャマでおじゃま』でデビュー。92年連載開始の大ヒット作『ふしぎ遊戯』はアニメ化、小説化、ゲーム化された。現在は『アラタカンガタリ ~革神語~』(「週刊少年サンデー」)、『ふしぎ遊戯 玄武開伝』(「月刊flowers増刊凛花」)が連載中。

■註
【註1】日蓮大聖人の教え
創価学会は日蓮系の宗教団体。学会では日蓮の教義を実践している。また、日蓮が法華経こそが釈迦の教えであるとしたように、創価学会も法華経を経典としている。

【註2】お題目
法華経の正式な題名(題目)「南無妙法蓮華経」のこと。創価学会の会員はこの題目を唱える勤行を朝夕実践することを修行としている。

【註3】ソルエンのような、人間の死
もう一人の主人公・女宿の従者ソルエンは、刺客に狙われた女宿を救うため、火薬を詰めた防具に自ら火をつけて壮絶な死を遂げる。

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