薔薇族の人びと ~波賀九郎編 モデルを追いつめてシャッターをきる!

薔薇族の人びと ~波賀九郎編 モデルを追いつめてシャッターをきる!の画像1 『薔薇族』に波賀九郎さんの作品が初めて登場したのは、昭和47年(1972年)9月発行のNO.7からだった。清野研三君という、波賀さんにとって理想とも言えるモデルに巡りあったことが、波賀さんの写真意欲を強くかきたてたのだろう。清野君は肉体はたくましいが、内面的にはマゾっぽい男だったので、サジストの波賀さんにとっては、いじめがいがありそこから男の魅力をひき出したのだ。

 波賀さんは「しなやかな獣」と題して、こんなことを書いている。

「清野君が撮影のために武蔵野の私の家を訪ねてくれたのは、ある夏の日の午後だった。私の指示に従って、彼は身につけた衣類を脱ぎ捨ててカメラの前に立った。私はいつでもシャッターを切れる状態に準備をして、彼の肉体を凝視した。あらかじめ期待していたことではあったが、思わず大きな感動が心の中に湧きあがるのを覚えた。

 私にとってこの瞬間の感動こそ大変に貴重であって、もし、この感動が起こらなければ、次の動作であるシャッターを切るということをしないであろう。

 では、どういう男の裸体に感動するのか。まず輝やく若さ、均整のとれた体型、美しい肌の色つやなどがあげられ、そこまでは女性のそれと変わりはない。私が求めてやまないものは、男の力、活気、いいかえればバイタリティーである。(中略)

 さて清野君の肉体は、常識的なものからはきわめて逸脱していた。体型も肌の色も、普通にいうところの“美しい”というものではなかったのだ。では、なにが私を感動させたのかというと、彼の活気の履歴のようなものが、いたるところに発散していたからである。

 古里を離れ、東京の大学に入りたいという希望のために、試験勉強と生活費を得るための激しい肉体労働に従事しているというありさまが、ふしくれだったからだに物語られていた。

 連続したシャッター音を聞きながら撮影される彼の心境は、そうした私の思惑の外にあったようだ。風呂に入る以外は裸になることはあまりないし、他人に見られ、撮影されるのだから、彼にとってはきわめて異常なできごとであったに違いない。そのために緊張と不安がこみあげてくるのか、全身に汗が吹き出し始め、やがて肌に油をぬったような光沢が発散してきた。特に脇の下のはみ出した毛の中から、ぽたぽたと太い汗の流れが、わき腹の方に向って伝わり落ちるさまは、とても素晴らしいものであった。

 撮影が終って帰る彼を私は駅まで送っていったが、彼の別れたくないという風情を見てとった私は喫茶店でいろいろ話をした。

 彼はさして美しくない男の裸体をなぜ私が撮影するのかわからないといった。その彼に私は私の意のありったけを話した。一時間以上におよぶ私の話を聞き終った彼は、「安心したよ。先生に会えてとてもよかった。」と言った。改札口で見送る私の方に振り向いて、ニコッと笑って人ごみの中に消えた清野君、どうか元気でいてほしい。」

 よっぽどモデルの清野君に惚れこんだのか、その後も清野君を撮りまくって、昭和48年4月に『波賀九郎写真集・梵(ぼん)』(定価2800円)を第二書房から刊行し、清野君の作品を多く入れている。

 昭和48年・12月発行の『別冊・薔薇族第1号』は、ほとんど波賀九郎さんの作品でうめつくされている。

 波賀さんの迫力のある写真を『薔薇族』はグラビアに使えて、雑誌の重みが増したと思う。モデルを追いつめてシャッターをきる波賀さんの写真は、モデルの迫力が伝わってくるようだ。
(文=伊藤文學)

薔薇族の人びと ~波賀九郎編 モデルを追いつめてシャッターをきる!のページです。おたぽるは、人気連載書籍ホビーの最新ニュースをファンにいち早くお届けします。オタクに“なるほど”面白いおたぽる!

- -

人気記事ランキング

PICK UP ギャラリー
写真new
写真
写真
写真
写真
写真

ギャラリー一覧

XLサイズ……
XLサイズって想像できないだけど!!