華山みおの物語探索 その55

『さよならくちびる』三角関係の恋と夢…大好きだから終わらせる…最高の歌が紡ぎ出す青春ロードムービー

 2019年上半期に見た映画の中で現在トップ3に入る映画を観てしまいました。今回は塩田明彦監督の映画『さよならくちびる』をレビューします。

 音楽にまっすぐな思いで活動する、インディーズで人気の女性ギター・デュオ「ハルレオ」のレオ(小松菜奈)とハル(門脇麦)だが、付き人シマ(成田凌)が参加していくことで徐々に関係をこじらせていく。全国ツアーの道中、少しづつ明らかになるハル・レオの秘密と、隠していた感情。すれ違う思いをぶつけ合って生まれた曲「さよならくちびる」は、3人の世界をつき動かしていく――。

 当初は予告や番宣やらに見ていたCMではあまり興味がそそられず、観に行く予定の無かった映画でした。だけどふとした時に、ちょっと行ってみようかな、と思い立ち映画館に行き、ラストシーンまで観た後に沸いてきたのは『この作品に出会えてよかった』という気持ちでした。

 「ふたりとも本当に解散の決心は変わらないんだな?」そこからスタートする、終わりに向かう物語です。ハルとレオは冒頭からずっと互いを敵対視しています。どっちかがどっちかに突っかかっていく様は、「これは解散するなぁ…」と思わされる険悪さです。でもライブを始めると息の合ったパフォーマンスを披露します。これはいったいなんなのでしょうか。

 ユニットとして一触即発状態のハルレオの間に緩衝材のように存在する、マネージャーでありローディを務めるシマは、元ホストで、元ミュージシャンだった彼は知識もあり、夢を諦めた体験があることから真摯にふたりと向き合います。彼の立ち位置がすごく絶妙なんです。

 物語を追いかけていくと、車に乗ってライブ会場を巡るこのハル・レオ・シマの三人の中に流れる複雑な三角関係が浮かび上がってきます。

 ハルのことが好きなシマ。シマのことが好きなレオ。レオのことがすきなハル。

 誰もお互いの気持ちを受け入れらず、そうするとどこかギクシャクしていってしまい、寂しさが蔓延して、イライラに発展してしまう悪循環が渦巻いています。

 三人とも別のベクトルでお互いが好きで、音楽が好きで、ハルレオが好きなのが伝わってくるからこそ、一緒に居るときにピリピリとしてしまうことを寂しく思う部分も見えてきて、たまらなくなります。人と人が一緒にいることって、なんでもなく出来ることのようで、それぞれの努力の上に成り立つものだから、三人が【続ける】努力をしないと続かないんですよね。

 シマは、ふたりとは少し違った視点でハルレオを見ているところや、ハルへの想いは叶わないだろうと達観して笑うところなど胸にくるポイントが多かったです。

 でもこの映画の見どころは、やっぱりハルレオの歌! 門脇麦さんも小松菜奈さんも歌が専門ではないのに、めちゃくちゃ上手い! そして作中で演奏される歌が全て良い!! 表題の「さよならくちびる」はもちろん、「誰にだって訳がある」「たちまち嵐」も最高です。

 私が最初にこの映画に興味を持てなかったのは、秦基博、あいみょんの楽曲を使用!! と大々的に謳っていたからでした。このふたりが嫌いとかではなく、大々的にアーティストの名前で宣伝しなくてもいいのに…という気持ちがあったんです。だけど物語の中で歌を聞いたら最高過ぎました。見終わった後、即座にダウンロードしました。ずーっと繰り返し聞いています。声も曲も最高です。

 そういえばファンにインタビューをするシーンがあって、その中のひとりが歌い出すんですよ。突然のことだったし、歌も上手くてびっくりしました。だけど彼女たちは函館まで来たのに、ライブハウスには入っていなかったんです。チケットが完売で入れなかったのかな、ちょっと偏ってこのファンを映すなと思ったら、アイドルちゃんふたり組でした。少し政治を感じました(笑)

 物語のラストに、車の中で彼女たちが「たちまち嵐」を口ずさむのですが「進んで行こう きっとこの先も 嵐は必ず来るが大丈夫さ」という歌詞が、解散後の彼らの道に期待を抱かせる、最高に気持ちのいいエンディングに導いてくれました。シマの、セリフとは裏腹な表情。ハルレオのいつも通りの緊張感のない言葉。彼らのこれからを、別の次元で期待したくなってしまいます。

 いつかどこかで、またハルレオの歌が聞けますように。ぜひ、劇場で彼女たちの歌声と解散までの軌跡を見届けてください。
(文=華山みお)

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